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フィンランド生まれ、オーストラリア育ちの作曲家、ダブルベーシストHelen Svobodaによる最新作『Headwater』が〈Room40〉から登場。16の短い断片から構成される本作は、フィンランドの歌い手Selma Savolainen、シドニーのベーシストJacques Emery、そして電子音楽家Tilman Robinsonを迎え、2本のダブルベース、2つの声、そしてエレクトロニクスを軸に、記憶や自己の輪郭が揺らぎながら形を変えていくような独自の音世界を描き出す。Svobodaの低音は、ただ支えるだけでなく語るように動き、擦過音やハーモニクスが繊細な表情を生む。そこにSelma Savolainenの透明感ある声が重なり、北欧的な響きと現代音楽的な緊張感が同時に立ち上がる。曲はどれも短く、場面が次々と切り替わるが、断片が連鎖することでひとつの大きな流れが生まれ、夢の中で記憶が浮かんでは消えるような感覚を呼び起こす。ジャズ、現代音楽、サウンドアートの要素が自然に交差し、音が空間の中でゆっくりと形を変え、聴き手の意識の奥に静かに染み込んでいくような感触のある一枚。
結成15周年を迎えたシカゴの音響デュオClearedによる、電子音、フィールドレコーディング、アコースティック断片を長尺の音響風景として編み上げた最新作『Lustres』が〈Room40〉から登場。Clearedの制作は、個別に録音した素材を互いに送り合い、加工し、再び組み直すという独特のプロセスが核となる。本作でも、古いデジタル録音機の荒れた質感と、最新スタジオのクリアな音像が同じ平面に並置されることで、時間の層が折り重なるような音の深みが生まれている。フィールドレコーディングの微細な粒子、低周波の揺らぎ、ギターやパーカッションの残響が、判別できないほど加工されながらひとつの地形のように連なっていく。彼らが長年探求してきた素材の再構築をさらに推し進め、暗い輝きを放つ音響世界を描き出した逸品。
前衛音楽集団Musica Elettronica Viva(MEV)の中心人物として知られ、50年以上にわたり電子音響と環境音の境界に身を置き続けてきたAlvin Curranによる、1970年代に録音された未発表テープ素材をもとに、現在の視点で再構築した新作にしてアーカイブ作品『ARCHEOLOGY // ARCHEOLOGIA』。収録されているのは、VCS3やSergeモジュラーによるアナログ電子音、環境音の断片、テープの揺らぎといった70年代当時の素材を、Curran自身が現在の耳で再編集した2曲。「Le Serra」では、アナログ特有の不安定な揺れが長い時間の層を描き、電子音の粒子がゆっくりと浮かび上がる。「Othello By Night」では、環境音のコラージュとドローンが交差し、遠景と近景が入れ替わるような空間が広がる。Curranの作品に通底する、音を配置するセンスの鋭さは健在で、音数は決して多くないが、ひとつひとつの音が長く尾を引き、空白の時間が音の意味を変えていく。1970年代の未発表素材を未来へ向けて再構築した重要な一枚。
40年以上にわたり、自作楽器Long String Instrumentの探求を続けてきた作曲家/パフォーマーEllen Fullmanの最新作『Elemental View』。本作は100本以上の長大な弦を空間に張り巡らせ、その空間全体を楽器として扱うインスタレーション作品を録音したもの。さらに、ギターやサントゥール、パーカッションを演奏するThe Living Earth Showが参加し、Fullman作品としては珍しいアンサンブル構造が導入されている。Long String Instrumentは、約24mを超える弦を指先で擦りながら歩くことで演奏される。弦の長さの違いによって生まれる倍音は、空間の中で複雑に干渉し合い、音が光の帯のように揺れ続ける独自の音響を生み出す。音がどのように生まれ、どのように空間を移動し、どのように変化していくのか、そのプロセスがそのまま音楽になるというLong String Instrumentの核心を、アンサンブルとの対話によってさらに拡張した意欲作。
オクラホマを拠点にアンビエント、フォークロア的電子音楽を探求してきたBrad E. Roseによる、落ち葉を踏む音という最小の物音から始まった、環境と人間の関係性をめぐる音響作品『The Sound Leaves』。アルバムの前半は、来場者が落ち葉の上を歩くと、その音がマイクで拾われ、リアルタイムで処理され、木立の中に設置されたスピーカーから響き返されるというインスタレーションの録音をもとに構成。乾いた葉が擦れる微細なノイズ、足音のリズム、風の気配。それらが電子処理によって柔らかく広がり、音は大きく変化しないようでいて、細かな揺らぎが積み重なり、時間の流れそのものが音として感じられるよう。後半の「In Collapse」は、同じ素材を1年後に再処理したもので、音像はより暗く、深く沈み込む。遠くで鳴る低周波の揺れ、葉の擦過音が影のように漂い、環境の変化が音の質感に刻まれていく。音を通して環境の変化を聴くという体験を形にした、サウンドアート的作品。
9月下旬入荷予定。フィールド録音やアンビエントを軸に活動してきたSa Paが、自身のレーベル〈Dub Techno For Life〉から放つ12インチ『Rhythm From Ambient』。アンビエントの質感をそのままリズムへ転写するというコンセプトで作られた作品で、霧のようなテクスチャ、柔らかい残響、微細なノイズが、ミニマルなキックと低域の揺れの上でゆっくり形を変えていく。ダンストラックとしての強度を持ちながら、音響作品としての繊細さが失われておらず、低重心のベースは深く沈みつつも軽やかで、空間の中で呼吸する低域がトラックの中心にある。フィールド録音的な空気や粒子が前面に出ることで、Sa Paらしい音響の細やかさが自然に機能している。同じ素材を多角的に再構築する構成も相まって、アンビエントとダブ・テクノの境界を探る充実の12インチ。

サウンドアーティストMarija Rasaによるプロジェクトemerのデビュー作で、アンビエント・ダブ、ダウンテンポ、実験音響が静かに重なり合う作品『Fog』。厚いベースがゆっくりと空間を満たし、その上で微細な音の粒子や声の断片が浮かんでは消える。ダブの伝統的な手法を基盤にしながら、音を再配置するようなミキシングが作品の中心にあり、霧の中で音が形を変えていくような感触が続く。リズムは控えめながら確かな存在感を持ち、低域の気配が全体を支える。アンビエントの柔らかさと、音響研究に基づく冷静な空間設計が自然に同居し、ヘッドフォンでもスピーカーでも印象が変わる多層的な音像が魅力。初期〈Short Span〉を象徴する、内省的なアンビエント・ダブ作品。
ベルリンの〈MISS YOU〉が1980〜1985年の日本のニューウェイヴ、ポストパンク、実験音楽から、ダブの手法を取り入れた録音だけを選び抜いた発掘コンピレーション『Japanese New Wave On Dub 1980–1985』。当時のアンダーグラウンドを横断するアーティストが参加し、自主制作カセットや小規模レーベルに埋もれていた音源が初めて体系的にまとめられている。ニューウェイヴ特有の硬質なギターやシンセの質感に、深いエコーや残響が重ねられ、都市的な乾いた音とダブの空間処理が自然に交差する。リズムはミニマルで、反復の中で音が少しずつ形を変えていく構造が多く、ジャマイカのものとは異なる日本的な抽象性が前面に出ている。DIY録音ならではのざらつきや機材の癖がそのまま残り、80年代の現場の空気が生々しく立ち上がるのも魅力。日本の知られざる音楽史の一側面を改めて示す重要な再発。
【track list】
A-1. Chinggis Chan Dread - Yattane Babylon
A-2. The Air Music International - Hot Steppers In A Dub
A-3. So-Do - Nothing
A-4. Momoyo & Lizard! - Sa·Ka·Na
A-5. EP-4 - dB
A-6. Pablo Picasso - Tsun
B-1. Bananarians - Suna No Atama
B-2. Pressure - Goouder
B-3. Pineapple 4.9 - Yoruni
B-4. Concretes - Watch The Moon
B-5. Masumi Hara - Looks Like An Angel
B-6. Business - Minato No Cafe
UKダブ・ポエトリーの象徴、Linton Kwesi Johnsonが1980年に発表した代表作『Bass Culture』。プロデュースと一部演奏を担うのはDennis “Blackbeard” Bovell。ロンドンのGooseberry Sound Studiosで録音された本作は、低域の厚みとタイトなリズムを軸に、LKJ の語りが鋭く響くもので、詩の内容は社会的・政治的テーマを正面から扱いながら、音楽としてのグルーヴを保っている。ベースは深く沈み、ドラムは乾いた質感で刻まれ、ホーンやギターは必要最小限のフレーズで空間を支える。ダブ処理は控えめながら精密で、言葉の強度を損なわずに音の奥行きをつくる。都市の空気をそのまま封じ込めたような生々しさがあり、レゲエの温度感とロンドンの社会的リアリティが自然に重なっていく。ダブ詩という表現を決定的な形にした作品であり、UKレゲエ、ダブの成熟を象徴するクラシック。
フリージャズから世界各地の音楽文化まで横断した伝説的トランペッターDon Cherryの、1979年から長年にわたり収集されてきた貴重なカセットテープのインタビュー音源をもとに、彼がが深く信頼を寄せた友人であり音楽ライターのGraeme Ewensが構成・執筆した決定的アーカイブ『Eternal Rhythm: Conversations and Travelations with Don Cherry and Graeme Ewens』。Cherryが世界各地を旅しながら記録した言葉、民族楽器のメモ、スケッチ、写真が多数収録。ジャズの技法解説ではなく、Cherryが音をどう感じ、文化をどう受け取り、それをどのように自身の演奏へと変換していたかを追うもので、アフリカ、アジア、北欧などを巡る旅の記録は、ジャンルを越えて音を受け取る彼の姿勢をよく示しており、生活音、民族音楽、スピリチュアルな響きが自然に混ざり合う世界が描かれる。Don Cherryの世界を理解するための最良の資料。

ロンドンの〈Life Is Beautiful Records〉が設立3周年を記念して制作した初のコンピ『veneration for the sacred action』。Aloisiusを中心としたキュレーションにより、エレクトロニカ、ダウンビート、フォーク、オルタナ、アンビエント、クラウトなど、多様なスタイルが自然に連なり、レーベルの現在地をそのまま音として浮かび上がる。声の扱いが特に豊かで、スポークンワード、柔らかな歌声、加工されたヴォーカル、民族的な声が、電子的テクスチャやアコースティック楽器と有機的に混ざり合う。ローファイな質感のトラックの隣にクラウトロック的反復が置かれたり、フォークの親密さとエレクトロニカの抽象性が並列で配置されたりと、ジャンルを横断するコラージュ的構造がコンピレーションとしての魅力を強めている。多層的で、絶えず表情を変える風景のような作品であり、レーベルの活動そのものを音で記録したアーカイブ的な性格が強い。また、どれも感覚が非常に鮮やかで現代的、〈Life Is Beautiful Records〉の世界観を総合的に味わえる、充実のコンピレーション。
〈Echospace〉が長年保管してきたアーカイブから選び抜かれた未発表素材、ロストテープ、別ミックス、ライブ録音を再構成したシリーズの第1巻『Altering Illusions [1/3] Remastered』。2007年から2010年のcv313の深層期を象徴する音源に加え、今回はRadius名義のレアなダブ・トラックも収録され、デトロイト録音ならではの湿度とアナログの質感がそのまま刻まれている。Stefan Betkeによるリマスターは、音像はより明瞭になりながらも、特有の沈んだまま光を反射するような質感は失われていない。サブベースの圧、最小限の構造、細かく調整された空間処理が重なり、cv313のダブテクノが持つ静かな重みがゆっくりと広がっていく。Interpolation Tapesシリーズからの追加曲も含め、低域の奥行きと反復のニュアンスがさらに強調され、〈Echospace〉のアーカイブ期を象徴する非常に重要な2LP。

植物の成長をテーマにした人気シリーズMusic To Watch Seeds Grow Byの第10作目。KiF Productionsによる本作『Music To Watch Seeds Grow By 010: Passiflora』は、トケイソウの種子の休眠から発芽、光への伸長、開花、受粉、結実、そして土へ還るまでのライフサイクルを音のレイヤーで丁寧に描いたアンビエント、サウンドコラージュ作品。フィールド録音、柔らかなシンセ、木管、チャイム、民族的な声、短波ノイズなど多様な素材が静かに重なり、自然物の時間軸で進むような音響環境をつくり出している。音は急がず、ゆっくりと形を変えながら進み、微細な変化が積み重なることで成長が音として立ち上がるようで、鳥の声や風の気配が電子音と有機的に溶け合い、コラージュの多層性が作品に奥行きを与える。劇的な展開ではなく、静かな変化を見守るような聴き心地が特徴で、シリーズの中でも特に完成度の高い一本。

〈AD93〉の姉妹レーベル〈Lith Dolina〉からの前作『Surreal』で注目を集めた日本人アーティストBot1500ことShinichi Kobayashiによるセカンド・アルバム『The Black Sea』が〈Short Span〉から登場。全曲高BPMの高いテンションを保ちながら、静けさと陰影を重視した独特のサウンド。音数を絞ったミニマルな構造の中で、湿り気を帯びたシンセがゆっくりと揺れ、パーカッションやブレイクが鋭く差し込む。静寂が音の一部として機能し、余白がリズムの輪郭を際立たせる。日本の海岸の夏夜を思わせる暗く湿ったトーンが漂い、電子音が水面に反射するように広がるダブ的処理が印象的。IDMの精密さとダブの空間性が自然に同居し、内省的でありながら静かな運動性が宿る、独特のテンションを生む充実作。
Black Ark最盛期の1977〜79年にLee “Scratch” Perryが制作した長尺12"ディスコミックスをまとめた〈Studio 16〉の人気シリーズ第3弾『Lee 'Scratch' Perry - Disco Devil Vol. 3 (5 More Classic Discomixes From The Black Ark Studio 1977-9)』。The Jolly Brothers「Conscious Man」、Max Romeo「Norman」、Leroy Sibbles「Garden Of Life」など、当時のBlack Arkを象徴する名演が高品質リマスターで蘇る。ディスコミックスならではの長尺構成で、ヴォーカルからダブへの展開が自然につながり、反復するリズムの中で音がじわじわと形を変えていく。ベースは深く沈み、ドラムは乾いてタイト。Perryの手作業によるエフェクト処理が極端に施され、音が煙のように立ち上がるBlack Ark特有のサイケデリックな空気が漂う。宗教的高揚と幻覚的な混沌が同居しする魔術的ダブの真髄。

イタリア人アーティストOltrefuturoが、自身のルーツであるアドリア海にインスピレーションを得て制作した『Figure Del Flusso (Movimenti Adriatici)』。レフトフィールド志向と、チル、ダウンテンポの感覚が自然に結びつき、海辺の空気を電子音で描いたような柔らかいサウンドが広がる。シンセは水面の反射のように揺れ、リラックスしたパーカッションが心地よくリズムを刻む。アンビエントとダブの境界を漂うサウンドデザインにバレアリックな開放感とレフトフィールドの奇妙な陰影が同居し、トランシーな高揚とオーガニックな質感がゆっくりと流れの中で形を変えていく。海流のように穏やかで、しかし確かな推進力を持つ作品。
イタリアの映画音楽およびライブラリー・ミュージックの黄金期を飾る伝説的存在の中でも、その時代のサウンド・アイデンティティを決定づけた真の立役者と評される名手4人組I Marc 4が残した、最も希少なライブラリー作品『S.M.2001 Silver Music』と『S.M.2002 Silver Men』の音源をまとめた決定版リイシュー。ローマを拠点に、MorriconeやRotaの録音にも関わった職人たちが、短尺ながら完成度の高いジャズ・ファンク、シネマティック・ジャズを次々と生み出していく。Carlo Pesの軽やかなギター、Antonello Vannucchiの柔らかいオルガン、Maurizio Majoranaの深いベース、Roberto Podioのタイトなドラムが作るあまりに完成されたアンサンブルは、ライブラリー音楽の枠を軽々と越えていく。Edda Dell’Orsoの声が加わるトラックでは、一気にイタリア映画の空気が立ち上がり、映像的な陰影とレアグルーヴ的な躍動が自然に共存。ビートの強い楽曲はブレイクとしても機能し、70年代のスタジオ職人芸と現代的なサンプリング文脈が交差する魅力を持つ。〈Sonor Music Editions〉による銀色のアートワーク再構成も美しく、I Marc 4の魅力をストレートに味わえる重要な再発。
Dennis Bovellが手がけた匿名的プロジェクト4th Street Orchestraによる、1977年ロンドンのサウンドシステム文化をそのまま封じ込めたルーツ・レゲエ/ダブの重要作『Yuh Learn!』。ジャマイカの温度感を保ちながら、UK特有の乾いた質感と硬いリズムが重なり、街の空気感漂うリアルな音像が魅力。Bovellの精密なダブ処理は、エコーやディレイが絶妙に配置され、動く空間をつくり出す。参加メンバーには、Dennis BrownやAswadを支えたJohn Kpiaye、Rico Rodriguezとも共演したEddie “Tan Tan” Thorntonなど、UKレゲエの歴史を形づくった名手が多数参加。ホーンは温かく、リズム隊はタイトで、サウンドシステムの現場で鳴らすことを前提にした強度を持つ。社会的背景が滲む「The Grunwick Affair」に象徴されるように、当時の移民コミュニティの現実や労働争議の空気が音の奥に宿り、レゲエがコミュニティの声として機能していた時代の息遣いが感じられる。UKレゲエの深部を知るうえで欠かせない一枚。
The Pop Group、The Slits、New Age Steppersなどで知られるドラマーBruce Smithを中心に、初期On-U Soundの精鋭が集結したコレクティヴPlaygroup。その唯一作にして、ジャマイカン・ダブを英国流に再解釈し、ポストパンクの硬質さと産業的ノイズ感を混ぜ合わせた1982年の異形ダブ作品『Epic Sound Battles Chapter One』。Crucial Tony、Sean Oliver、Style Scott、Eskimo、Bonjo IといったCreation Rebel、African Head Charge、New Age Steppersの面々が参加し、On-U Soundのスタジオ魔術を背景に制御された混沌が立ち上がる。タイトで鋭く、複雑に絡む、立体的な音像。儀式的な雰囲気と暗いユーモアが全体に漂い、緊張感と遊び心が同居する独特の音像が魅的。Adrian Sherwoodが全面プロデュースの初期On-U Soundの精神を象徴する重要作であり、UKアンダーグラウンドの歴史的アーカイブとしても価値のある再発。
Alternative TVのフロントマンにして、UKパンク黎明期の象徴的な自主制作のミニコミ誌Sniffin’ Glueを創設したMark Perryが、1980年に発表した初ソロ作『Snappy Turns』。ATVの攻撃的なパンク性から距離を置き、より個人的でアートロック、ポストパンク寄りの表現へと踏み出した作品で、Grant Showbizが手がけた曇ったプロダクションが全体の空気を形づくる。Perry自身が多楽器を重ねることで生まれる壊れかけのポップの質感は、ポストパンクの陰影とDIY的な粗さが自然に同居したもの。語りと歌は静かに歪んだ視点を持ち、曲の奥にある不安や皮肉を浮かび上がらせる。特にテープループやヴァイオリンを用いた音像は、Throbbing GristleやPsychic TVの系譜を思わせるもので、Nurse With Woundリストに並んでも違和感のない独特の世界観をつくっている。パンク、アートロック、インダストリアルの影響が交差し、80年代UKアンダーグラウンドの曖昧で不穏な空気をそのまま封じ込めた一枚。
前作『Rock Joint Biwa – Furukotofumi』で日本神話を音楽化した鈴木宏昌が、翌1973年に挑んだ国境を越える音の旅『Rock Joint Cither – Silk Road』。シルクロードをテーマに、インド、中央アジア、中国の文化的源流をジャズロックの語法で描き出した意欲作で、シタール奏者上原陽子を迎え、前作で琵琶が語り手だった構造をそのまま拡張し、シタールが新たなナレーターとして作品全体の方向性を形づくる。鈴木宏昌トリオによる強力な演奏が作品の芯となり、エレピ、ピアノはモーダルな展開からロック寄りのリフまで自在に動く。そこへ村岡建のサックス、フルート、オーボエ、ホルンなどの管楽器が彩りを加え、アジア大陸の風景が抽象的に立ち上がる。知的なジャズロックと東洋的な旋律が自然に交差する、日本モダン音楽の考古学的発掘とも言える重要な再発。
日本最古の歴史書『古事記(Fulukotofumi)』を題材に、鈴木宏昌がジャズロックと和楽器を大胆に融合させた1972年の異色作。琵琶と和太鼓の響きが作品の核となり、古代の物語性と70年代ジャズロックの推進力が自然に交わる構成で、三宅志穂の琵琶は語りのような強さを帯び、バンドのアンサンブルの中で独特の存在感を放つ。鈴木のエレピ、ピアノはモーダルな展開からロック寄りのリフまで自在に動き、場面転換のようなダイナミズムを生み出している。参加メンバーは杉本喜代志、村岡建、稲葉国光、石川晶など当時の日本ジャズ界の最強布陣で、国際水準の演奏力と実験精神が作品全体を貫いている。ときにプログレッシブ・ロック的な展開も顔を出す、古代の神話世界と70年代のモダンな表現が同時に立ち上がる、唯一無二のクロスオーバー作品。
John Lurieを中心に、NYダウンタウンのアヴァンギャルド、ノーウェイヴ周辺で活動したThe Lounge Lizards。その初期ライブを記録した、バンドがまだ形になりきる前の勢いと実験性をそのまま封じ込めた重要アーカイブ『Live 79–81』。サックス、ピアノ、ギターがそれぞれ異なる方向性を持ちながら、ライブならではの緊張感の中でひとつの流れをつくっていく。John Lurieのサックスはメロディを提示しつつ、どこか皮肉めいたニュアンスを帯び、Arto Lindsayのギターはノイズ、テクスチャーとして音像に鋭さを加える。Evan Lurieのピアノが構造の支点となり、アヴァンギャルドな展開でも音楽が崩れすぎないバランスを保っている。ジャズ、ポスト・ボップ、ノーウェイヴが自然に交差し、NYダウンタウンの空気がそのまま立ち上がる内容。スタジオ作品では味わえない初期衝動が色濃く漂い、バンドの方向性が形成されていく過程を感じられる、1985年のカセット初出から評価され続けるライブ盤。
Barry Brownの黄金期ルーツ音源をまとめた決定盤『Can’t Stop Natty Dread』。プロデュースとアレンジはLinval Thompson、演奏はRoots Radics、ミックスはKing Tubby。Channel Oneの太いリズムとTubbyの深い残響処理が重なり、70年代末から80年代初頭のジャマイカ音楽が持つ力強い質感がそのまま息づいている。Barry Brownのヴォーカルは語りかけるような素朴さと芯の強さが共存し、社会的テーマの曲でも過度に重くならず、自然な説得力を保っている。Roots Radicsの演奏は、太いベースと乾いたドラムを軸に、ルーツレゲエの王道の鳴りを安定して支え、曲ごとに微妙なニュアンスの違いを生み出す。〈Thompson Sound〉の再発らしく、当時の空気を保ったままの質感で、黄金期の手触りがしっかりと残っている。
