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kishun が描き出す、古い世界の残響をテーマにした実験音響作品『古界|Kokai』。カセットテープ特有のざらつきや揺れを積極的に取り込みながら、環境音、ドローン、ミニマルな旋律、ノイズの粒子がゆっくりと重なり合い、まるで朽ちかけた神殿や、忘れられた土地を歩いているような感覚を生む。雅楽のような空気もあり、現代の音楽というより、どこかでずっと鳴り続けていた祈りのような響きを帯びており、大きな展開はなく、微細な変化がゆっくりと浮かび上がる構造で、耳を澄ませるほど奥行きが広がっていく。アンビエント、ドローン、実験音響の境界を漂いながら、静かでありながら濃密な世界観を持つ一本。
Hyotan Namazによる解説
kishunは雅楽の笙奏者石川高(*1)と、楽琵琶奏者の中村かほる(*2)によるユニット。笙と琵琶のみというミニマルな編成で、「旋律のない雅楽」に潜む響きを引き出すコンセプトで2015年から活動している。
雅楽は千数百年の歴史をもつ日本の伝統音楽で、もともと日本で古来より伝えられてきた歌や舞、5世紀から9世紀にかけて朝鮮半島や中国大陸から渡来した舞や器楽などを、平安時代の貴族がまとめ直したものが現代に伝わっている。大陸由来のものも、日本に定着する過程で、アレンジ・再編成されており、現在伝わる雅楽はどこの国のものとも異なる日本固有のものである。平安時代にはほぼ現在に近い形が整っていたと見られる。宮中で保護・演奏されてきた宮廷音楽としての顔に加え、寺社での法要・祭礼などでも演奏される宗教音楽としての顔も有する。そのような経緯から、貴族や楽人と呼ばれるプロの音楽家などの間で庶民の感性・嗜好から離れた形で伝承されてきており、楽器も舞も、日本の他の伝統音楽とは異なった特徴を多く有する。
雅楽の種目は、大陸から渡来した舞を含む「舞楽」、器楽の合奏である「管絃」、日本古来の歌や舞である「国風歌舞(くにぶりのうたまい)」、平安時代の声楽である「歌物」の四つに大別されるが、この中で、「管絃」は、日本の伝統音楽のなかで楽器のみのオーケストラとして体系化されているきわめてまれな形態といってよく、声楽が中心で、器楽合奏は、小規模編成か、演劇・舞踏の伴奏に用いられることが一般的な日本において異色の存在といえる。
「管絃」で使われる楽器は、三管両絃三鼓といわれ、管楽器(三管)では、笙、篳篥、龍笛、絃楽器(両絃)では琵琶、箏、打楽器(三鼓)では鞨鼓(かっこ)、太鼓、鉦鼓(しょうこ)となっている。旋律を担当するのは篳篥(ひちりき)、龍笛で笙は和音でそれらを包み込むのが主な役割、絃楽器はリズムに縁取りを与えるのが役割である。kishunはこの中の笙、琵琶のみで古典曲の演奏や即興を行っている。
笙は17本の長さ・音高の異なる竹管を束ね、下部に金属製のリードをつけたフリーリード楽器である。伝統的奏法ではタンギングは持ちいられず、息遣いによりフレーズを形成する。各管の音は大きくはなく、合奏における役割は、合竹(あいたけ)と呼ばれる持続和音を演奏することで、旋律を色付けし、モードの重心を示すことである。
一方、楽琵琶はリュート属の楽器で、現在使われているものは4絃4柱(4つのフレット)で、撥を使って弾く。背面は平坦で胴体は浅い。音の特徴として、弾いた瞬間は力強いが音の減衰が早く残響がほとんどない。その為、琵琶の役割は和音的というよりはリズム的である。
kishunは雅楽の管絃のなかで旋律を担当する楽器を含めず、合竹による音の場を作る笙と、リズムの縁取りを行う琵琶に絞ることで、旋律の奥に潜んでいた響きを引き出そうとするところに実験性がある。熟練の2名の技巧により、その狙いは十分に果たされ、伝統的な編成の雅楽では無意識のうちに覆い隠されていた響きは、前景に立ち現れ、斬新な姿で聴くものに語りかけてくるのである。
(*1)石川高 宮田まゆみ、豊英秋、芝祐靖に師事。雅楽の笙と歌謡を学ぶ。1990年より演奏活動を開始。雅楽団体「伶楽舎」に所属し、雅楽古典曲や現代曲の演奏を行うかたわら、独奏者としても活動。坂本龍一、Evan Parkerなど多くのアーティストのプロジェクトにも参加してきた。即興演奏にも積極的。
(*2)中村かほる 大学在学中、世界最古の琵琶譜「番假崇」(芝祐靖氏復曲)の演奏に出会い雅楽を学ぶ。龍笛を芝祐靖、楽琵琶・右舞を山田清彦に師事。「伶楽舎」所属。1990年より演奏活動を行い、国内外の音楽祭やソロでも活躍。廃絶された古典曲の復元にも取り組む。

ラッパー、プロデューサーのIDKことJason Millsによる最新ミックスLP『Even The Devil Smiles』。自身の過去の収監経験や、早期釈放という人生の転機を背景に、生存・変容・裏切り・精神的葛藤・回復を描くもので、ハードなビートと内省的なリリックを融合。MadlibやNo I.D.といった大物プロデューサーとのコラボで、クラシックなヒップホップの質感と現代的なサウンドを併せ持っている。IDKが自身の過去と精神的葛藤を真正面から描いた個人的で内省的なヒップホップ作品。

異形の語り口で知られるFatboi Sharifと、掴みどころのない、漂うようなサウンドメイキングのChild Actorが初タッグを組んだ、ラップという形式を越えて心理の迷宮を描くようなアルバムが〈Backwoodz Studioz/Rhymesayers Entertainment〉から登場。Sharifのラップはリズムよりも声の質感や比喩の連鎖に重心があり、寓話・悪夢・断片的な記憶が混ざり合う独特の語り。Child Actorのプロダクションは硬質なビートではなく、アンビエント、インダストリアル、シネマティックな要素が溶け合う水面のように揺れ続ける音像で、Sharifの声を包み込みながら、曲ごとに異なる心理空間を描き出す。2026年アンダーグラウンド・ヒップホップの最前線。

billy woods とのデュオArmand Hammerで知られるNYCアンダーグラウンドのラッパー ELUCID と、スイスのプロデューサー Sebb Bash がタッグを組んだコラボアルバム『I Guess U Had To Be There』が〈Backwoodz Studioz/Rhymesayers Entertainment〉よりリリース!ざらついた質感のビートは、1980年代末のブームバップの影を残しながらも、ジャズやサイケデリア、スピリチュアルなムードが混ざり合い、過去の音にも未来の音にも聴こえる時間軸がねじれたような独特の空気をまとっている。その上を ELUCID の声は呪術的な低音で響き、精神世界、歴史、個人神話を行き来する抽象的なリリックが、音の隙間に深く沈み込んでいく。ELUCID の精神世界と Sebb Bash の異形ビートが完全に融合した、二人の職人が頂点で交わった時にだけ生まれる作品。billy woods、Shabaka Hutchings、Estee Nack、Breeze Brewin などアンダーグラウンドからジャズの重要人物も参加。
Bob Marley、Peter Tosh、Bunny Wailerのトリオ時代にLee “Scratch” Perryと組んで制作された初期レゲエの重要作『Soul Rebels』。Perryのプロダクションはホーンを排し、ギター、ベース、ドラム、オルガンだけで構成された乾いた音像。後のルーツレゲエよりも荒削りで、夜の静けさを感じさせるミニマルなリズムが全編を支配している。後年の名曲へつながるテーマ性がすでに濃厚で、Marleyのソングライティングが芽吹く瞬間がそのまま刻まれている。トリオ時代のコーラス・ワークも魅力で、素朴な民謡的温度感とストリートの荒々しさが自然に同居。Wailersが国際的なステージへ踏み出す前夜の核そのものとも言える荒削りで幽玄な初期レゲエの名作。

〈Kankyo Records〉にもモダン・アンビエントの結晶的作品を残す実験音響作家──Yama Yuki主宰のもと、Marginal ConsortやEast Bionic Symphoniaでの活動も知られる前衛音楽家、多田正美や前衛劇団〈パパ・タラフマラ〉で音楽を指揮した環境音楽の名手・菅谷昌弘といった作家の貴重なカセットフォーマットの新譜まで手掛けてきた、現行国内最高峰の音響系カセット・レーベル〈ato.archives〉のタイトルが一挙到着!本作は、尺八奏者であると同時に有機米農家でもあり、自然との関わりをそのまま演奏の根幹に置くKatsuya Nonakaによる純粋な尺八作品。収録曲をすべて古典本曲で構成、使用した尺八はすべて自身が制作した地無し尺八で、竹の自然な形を生かした豊かな倍音と個性ある響きが、曲ごとに異なる表情と深い余韻を生み出している。

〈Kankyo Records〉にもモダン・アンビエントの結晶的作品を残す実験音響作家──Yama Yuki主宰のもと、Marginal ConsortやEast Bionic Symphoniaでの活動も知られる前衛音楽家、多田正美や前衛劇団〈パパ・タラフマラ〉で音楽を指揮した環境音楽の名手・菅谷昌弘といった作家の貴重なカセットフォーマットの新譜まで手掛けてきた、現行国内最高峰の音響系カセット・レーベル〈ato.archives〉のタイトルが一挙到着!1975年に小杉武久に師事し、伝説的即興音楽グループEast Bionic Symphoniaに参加。現在はMarginal Consortのメンバーとしても活動、実験音楽、ジャズ、ロック、インド古典音楽、さらに観世流能楽の謡を演奏するTomonao Koshikawaによる、ato.archivesからのデビュー作『Footprint』に続く、2作目のソロ作品。カセットテープというフォーマットの柔らかい質感と、彼の繊細な音響処理が重なり、宇宙空間の広がりと微細な光の粒子が漂うようなサウンド。50年にわたる探究の成果。

須田誠舟(1947-)は東京都出身の薩摩琵琶・平家琵琶奏者。薩摩琵琶を辻靖剛に、平家琵琶を金田一春彦に師事。1970年に琵琶楽コンクールで優勝。その後、約半世紀以上、琵琶界の一線を走ってきた。
琵琶は奈良時代ごろ日本に伝わったという長い歴史を持つ楽器で、起源はイランといわれる(リュートやウードと同源)。雅楽琵琶、平家琵琶など、いくつもの種類、流派があるが、今回の録音は薩摩琵琶という種類の琵琶。戦国時代の薩摩(現在の鹿児島県)の武将で島津家中興の祖、島津忠良が盲僧の淵脇寿長院に命じて作曲させたのがそのはじまりといわれるから、その頃から数えると500年程の歴史がある。薩摩の武士階級の音楽として発展してきた。その為、質実剛健を主とし、豪放さ、自由闊達さを特色とする。

Hieroglyphicsの中心人物Del The Funky Homosapienが1997年にカセットとCDのみで発表、流通した幻の3rdアルバム『Future Development』が初のアナログ2LP化。本作は、メジャーを離れたDelが 完全DIY精神で制作した過渡期の重要作。哲学的で内省的なラップ、煙たいローファイ・ビート、ジャジーなサンプル、そしてHieroglyphicsらしい複雑なライム構造が全編に息づく。派手さよりも思索と観察に重心を置いたスタイルで、90年代西海岸アンダーグラウンドの空気を濃厚にまとった一枚。当時の西海岸を席巻していたG-Funkの煌びやかさとは対照的に、ジャズ・サンプルのループと、Delの独特なフロウが淡々と、かつ緻密に絡み合う、知性とユーモアが同居するアルバム。30年近い時を経た、知性派ラッパーの最も純粋な思索録。

ディープ・リスニングのために開かれた、幻視的サウンド・メディテーション。Flying Lotus主宰の〈Brainfeeder〉からの作品も知られる奇才であり、”Modern New Age”(現代のニューエイジ)というヴィジョンを掲げ、2010年代以降のシーンを牽引した新時代のニューエイジャー、Matthewdavidによる2016年発表の名作『Trust the Guide and Glide』が、100部限定でカセット再発!
シンセサイザー、フルート、ハープ、水音、微分音的な響きが溶け合い、夢と覚醒の境界をたゆたうような音響空間を創出。Dublabでの即興演奏を起点に生まれた楽曲群は、電子音楽と精神的探求が自然に結びついた稀有な作品として結実。プロデューサーであり盟友でもあるCarlos Niñoが本作を「Heart Music」と表現したその言葉通り、ここには技巧や様式を超えた純粋な祈りのような響きがあり、癒し、変容、発見、そして無条件の愛。Matthewdavidが見つめる内なる宇宙は、静かに聴き手の意識にも作用していきます。ニューエイジ、アンビエント、スピリチュアル・ジャズ以降の感性、そしてLeaving Records周辺のコズミックな想像力が交差する一枚。アートワークはヴィジョナリーアートで著名な、Gilbert Williamsによるもの。

待望のリプレスです!Meditationsベストセラー!2018年に自主プレスとして当初限定50部のみでリリースされていた大人気作!ジャズ・トリオ、Ingaのリーダーとしても知られ、サイケデリックやアウトサイダー、メディテーティヴと評される自由でユニークなサウンドを営んできたLAのサックス奏者のSam Gendelと、同地のベーシストSam Wilkesのコラボレーションよる、ジョン・ハッセルの第四世界にも通じるアヴァンギャルド・ジャズ作品がLeaving Recordsより登場です!一聴してドープ極まりない音楽の渦の中へとただただ吸い込まれます。洗練されたジャズ・マインドを、西海岸らしい自由な気風溢れるユニークで実験的なサウンドへと落とし込み、瞑想的ですらある独特の響きへと昇華した自信作。絶妙な塩梅にくぐもった音像が尚更聴き手を気持ちよくさせます。一推し!

2023年のセルフタイトル作が幅広い注目を集めたフィラデルフィアのSSW、Greg Mendezが、その勢いを受けてさらに深く内面へと潜るフルアルバム『Beauty Land』。本作は、窓のない自宅スタジオで一人きりでテープ録音されたもので、そのためか、音のすべてが手触りのあるローファイ質感で、まるで目の前でつぶやかれているような深みのある親密さが全編を貫いている。重いテーマを扱い、短い曲の中に、人生の痛みと救いの断片がそのまま封じ込めている。ローファイSSWの素朴さに、ドリームポップが淡くにじむ独特の質感で、トイピアノやキーボードのかすかな揺らぎ、かすかに震える歌声が、夢と現実の境界を歩くような静かな非現実感を生んでいる。短い楽曲が連なる、まるで短編集を読むような構成も魅力的。USインディの現在地を象徴する一枚として、ジャンルを越えて支持されそうな一枚。

ヒューストンのScrewed Up ClickやUGKに象徴されるスクリュー文化と、Coilに代表されるヨーロッパの実験音響を独自に接続してきたアーティスト、プロデューサーRabitが、自身のレーベルから発表したカセット作品『Stranger in a Strange Land』。ピッチを落としたような粘性のあるビートがゆっくりと沈み込み、ヒューストンの夜の湿度をそのまま閉じ込めたような質感が漂う。音数は極端に少なく、乾いたスネア、ざらついたノイズ、遠くで揺れるシンセの残響が、広い空間に点描のように配置されている。その空白が音楽の一部として機能し、静けさの中に緊張感が走る。「最小限の構成だが、大音量での再生を要求する作品」とも評される、音の密度と空白を極めて緻密かつ大胆に扱った意欲作。

Alexis Le-TanとJoakimによるデュオFull Circleが、過去10年間に手がけてきたリミックスをまとめた集大成的作品 『Full Circle Remixes』。Vox Populi!、Tapan、10LEC6、Die Orangenなど、ジャンルも地域も異なるアーティストの楽曲リミックスが10曲収録。彼らが一貫して追求してきた美学が強く反映されており、テンポは急がず、じわじわと熱を帯びていくスローモーション・トランス。丸みのあるキックと太いベースが、深夜のフロアをゆっくりと回転させるような重心の低いグルーヴを生み出す。〈Good Morning Tapes〉からのリリースなど、カルト的な人気を築いてきたFull Circleの活動の裏側を一望できる総括的なリミックス集。
Demdike Stareが主宰する〈DDS〉より、新鋭NZOによる、2025年10月に英国ロザラムで行われたNo Bounds Festivalのライブ録音『Live at No Bounds Festival』が登場。跳ねるリズムと予測不能な間合い、ゴーストスネアが細かく刻まれ、ビートは直線的に進むのではなく、一瞬の空白やズレを使って身体の重心を揺さぶる。R&Bの声の断片やガラージ的なコードがふっと浮かび上がり、甘さと鋭さが同居する曖昧な情緒を生む。様々な要素が高速で交差する、NZOのリズム感覚と高いエネルギーが生々しく刻まれたライブ作品。
【※カセットテープにのみライヴ音源追加収録!】ミステリアスなビジュアルと、東洋と西洋を掛け合わせた摩訶不思議な音楽で、今世界中の早耳ファンがこぞって話題にし、フォロワー数を急速に伸ばしている注目の3ピース・バンド、グラス・ビームス。 東洋と西洋を融合し、歴史と未来を織り交ぜる。バンドが作品に込めるこのメッセージは、生楽器とエレクトロニカを通したプリズムとなって、時代や場所の概念を超越したエキゾチックなサウンドを生み出し、魅惑的で神秘的な世界を作り上げている。
メルボルンを拠点とするグラス・ビームスは、ラジャン・シルヴァを中心に結成された。結成の背景には、1970年代後半にインドからメルボルンに移住してきた父親にラジャンの思いと、幼少期の思い出があるという。2002年にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われた、ビートルズの故ジョージ・ハリソンへのトリビュート公演『Concert for George』のDVDを父親と見た記憶の中で、インドの伝説的シタール奏者ラヴィ・シャンカールと娘のアヌーシュカが、西洋のアイコンであるエリック・クラプトン、ポール・マッカートニー、ELOのジェフ・リンと共演した姿が目に焼きついていた。彼の幅広い音楽背景は、父親のレコード・コレクションにも由来している。B.B.キングやマディ・ウォーターズといった正統派ブルースとともに、ボリウッドを代表するアーシャ・ボースルやマンゲシュカルなどを聴いて育ち、R.D.バーマン、アナンダ・シャンカール、カルヤンジ・アナンジといったインド人アーティストによって開拓された、西洋の音楽スタイルと伝統的なインド音楽の融合に惹かれていった。
無国籍感溢れるエキゾチック・サイケデリアの世界観を作り上げた彼らは、2021年にリリースされたデビューEP『Mirage』をリリース。SNSとストリーミング、口コミを通じて話題となり、瞬く間に音楽ファンの間で噂が広がっていった。デビュー作のいきなりの成功で招待されたフェスティバルでは、『Mirage』EPの収録曲と、20分の未発表曲を披露。その未発表曲の初期段階のパフォーマンス映像が、何百万回もの再生回数を記録し、熱狂的なファンを急速に増やした。2023年のツアーを終えた彼らは、その20分の楽曲をレコーディングするために自宅スタジオに戻り、完成した作品は『Mahal』と名付けられた。

カナダ・トロントを拠点に活動するKevin & Patrick Cahillの兄弟デュオEast of the Valley Bluesによる、アコースティック・ギターという最小限の編成でアメリカン・プリミティヴの精神を現代的に再解釈した一枚『Blood Blood Song』が、お馴染み〈Death Is Not The End〉から登場。Kevinはナイロン弦と時にプリペアド、Patrickはスチール弦を担当し、左右に振り分けられた録音が二人のギターが向かい合い、中央で出会うような立体的な音像を作り出す。音楽は、John FaheyやRobbie Bashoの系譜に連なりながらも、より抽象的で、より映像的。歴史や物語を想起させるタイトルが多く、曲ごとに異なる情景が静かに流れ込んでくる。ナイロン弦のパーカッシヴなアタックと、スチール弦の澄んだ響きが絡み合い、会話するように進むアンサンブルが核。抑制された最小限の動きの中に、濃密な蠢きを内包するかのような音像は、アメリカン・プリミティヴの深みに潜り込んでいくかのよう。

お馴染み〈Death Is Not The End〉による、オスマン帝国崩壊後の激動期に録音されたガゼルと呼ばれる声楽即興の貴重な記録をまとめたコンピレーショ『The Pain of Separation: Turkish Gazels, 1926–1935』。1926〜35年に残された78 回転盤から丁寧に復元された音源で、Hafız Sadettin Kaynak、Hafız Kemal Bey、Hoca Izak Algaziなど当時の名歌手たちの歌唱を収録。ガゼルは、オスマン古典音楽の伝統に根ざした旋法マカームに基づく声楽即興で、伴奏がほとんどない声だけの芸術とも言える形式。音楽は、声が空中で揺れ、舞い、泣き、祈るように響く。メリスマを多用した歌唱は、まるで声そのものが楽器のように自由に動き、息遣い・震え・間合いが音楽の流れそのものを現前している。ギリシャのアマネスやレベティコと地続きの節回しも多く、国境を越えた地中海のブルースとして聴こえる瞬間も。声の芸術が持つ深い情念と静かな祈りが刻まれたスピリチュアルな歌の数々。
Iggy and The Stoogesが1974年にデトロイトのミシガン・パレスで行った、バンドの死に際とも言える混沌のライブを収録した伝説的なアルバム『Metallic K.O.』が、Spacemen 3のSterling Roswellによるリマスタリングを経て〈Death Is Not The End〉よりオフィシャル再発。観客との罵声の応酬、瓶や氷が飛び交う暴力的な空間、演奏は荒々しく、時に崩壊寸前。曲中でメンバーがタイミングを失い、Iggyが「ドラムだけくれ!」と叫ぶ場面も記録された、挑発的で破滅的なパフォーマンスがそのまま記録された、ロック史上最も危険で生々しいライブ盤。オリジナルは1976年にフランスの〈Skydog Records〉からリリースされており、セミ・ブートレグ的な扱いながらもアメリカで10万枚以上を売り上げ、The Stoogesの伝説を決定づけた、ロックの限界と狂気を記録した音のドキュメント。パンク以前のプロト・パンクの精神が凝縮された一枚として、今なお語り継がれる名盤。
フィンランドのディガー、DJとして知られるDJ Mitmittaによる、1970〜80年代のエチオピア、エリトリアのロックンロール音源のミックステープ。収録されているのは、警察楽団、革命歌、個人アーティストによるローカル・ロックの数々で、Harer Police Orchestra、Tewolde Redda、Getachew Kassa、Tamrat Molla、さらにはLed Zeppelin「A Whole Lotta Love」のアムハラ語カバーまで飛び出す、驚くほど多彩な選曲が並ぶ。乾いたファズギターの荒々しい歪み、ワウのうねり、ブラスの鋭いアタック、土着的な旋律が絡み合い、西洋ロックともアフロビートとも異なる独自のグルーヴが立ち上がる。録音の粗さが逆に魅力となり、当時の現場の空気がそのまま耳に飛び込んでくるような生々しさがある。エチオロック黄金期の熱量をそのまま閉じ込めたミックスは、辺境ロックの奥深さを示しつつ、最高にかっこいいギター音楽としても楽しめる充実の一本。

フィンランドのアンダーグラウンド電子音楽シーンで注目を集めるJuuso Paasoによるソロ名義Tulevat Käsitteetのカセット作品。全楽器をJuuso Paasoが担当し、ローファイなテープの質感とアナログシンセの揺らぎが溶け合う、手触りのある電子音楽といった趣で、ざらついたノイズの中からメロディがふっと立ち上がったり、サックスが室内楽のような静けさをもたらしたりと、抽象性と親密さが交互に現れる独特のバランスが魅力。ムーミン語彙をもじった曲名など、フィンランドらしいユーモアが漂い、遊び心と実験精神が同居した奇妙なポップ感も感じられる。どこかエチオピアの音楽のような正体不明な感覚もあり、フィンランドの地下深く、サイケデリックでドリーミーなD.I.Y.音楽をひっそりと育むコミュニティに想いを馳せたくなるような一本。
エチオピアの80〜90年代カセット文化から、歌手が席を外した時にバックバンドが延々と演奏していたような、歌もののB面やインスト曲を集めたコンピレーション。収録されているのは、カシオ・キーボード、安価なドラムマシン、シンセブラスなどによるローファイなシンセ・ジャムで、素朴な機材が生む 埃っぽくも温かいエチオ・ミニマルが魅力的。結婚式場、街角のバー、深夜のスタジオ。そんな生活の匂いがそのまま閉じ込められたような音像で、単純な反復フレーズが続くうちに、ゆるやかなトランス感と独特の郷愁が立ち上がる。Yishak Banjaw、Zerihun Wdajo、Elfenesh Kano、Tewodros Mekonnenなど、本来は歌もの作品で知られるミュージシャンの裏の演奏が主役として再評価されるのも面白い。当時標準的だった60分テープの余白を埋めるためのジャムに過ぎなかったものが、こうしてまとめられることで、影に隠れていたミニマルで催眠的なエチオ・エレクトロニクスという並行世界が浮かび上がる。かつて存在した豊かな文化へと直接繋がる、カセットの醍醐味にあふれた一本。

東京を拠点に活動し、Delphine Dora、Aidan Baker、大友良英、Phewらとの共演でも知られる即興演奏家 Ayami Suzukiによる最新作『Remnants』が〈Students Of Decay〉限定100本で登場。本作は、2019年に父を亡くしたことを契機に制作が始まった、「存在と不在のあいだ」をテーマにした極めてパーソナルな作品。最小限の機材を用いて自身の内面と対峙する、本人が「儀式のようだった」と語る環境で録音された音は、静かで繊細でありながら、どこか温かく包み込むような余韻を残す。漂う残響、わずかな音の揺らぎ、記憶の影。彼女のヴォイスが層を成し、ディレイやリバーブの中で輪郭を溶かしていく様は、喪失が時間とともに変化していくプロセスそのものを描き出すかのよう。亡き父との対話、あるいは「不在の存在」との共演であることを示唆する、「これはソロアルバムではない」という本人の言葉は象徴的で、哀悼という一言では片付けられない、消え去ったものの残り香であり、今もなお響き続ける魂の祈り。
