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Portable/Bodycode名義で知られるAlan Abrahamsと、お馴染みJan Jelinekによる初のコラボレーション作。Alanが録りためた声のスケッチを、Jelinekが徹底的に加工・再構築することで生まれた、〈Faitiche〉らしい抽象性と身体性が交差する。歌ともノイズともつかない声のレイヤーが、乾いたビートや微細なパルスと溶け合い、ダンスとアンビエントの境界を漂うような独特のグルーヴを生み出している。聴くほどに細部が浮かび上がる音のコラージュには、深夜の都市の空気を思わせる孤独な内省と声の温度が同居しており、静かで深く、親密な電子音楽作品。
チェコの古楽デュオIrena & Vojtech Havloviが手がけた、映画『Saving One Who Was Dead』と『Little Crusader』のサウンドトラックをまとめた作品。喪失・祈り・再生というテーマをヴィオラ・ダ・ガンバ、オルガン、声のみによる削ぎ落とした構成で描き出した純度の高い音楽で、録音は主にプラハの教会で行われ、オルガン曲は ミラノの教会で収録。長い残響がヴィオラ・ダ・ガンバやオルガンの音をゆっくりと空間に広げ、音と静寂が対話するような構造が生まれている。音楽は、宗教音楽とも民俗音楽ともつかない独特の透明感を持ち、チャントの声は言葉よりも息の流れが前に出る。ヴィオラ・ダ・ガンバの柔らかな倍音がそれを包み込み、時間がゆっくりと伸びていくような静かな緊張が続く。古楽器の響きは中世的でありながら、構造は現代音楽のミニマリズムに近く、静謐なアンビエントのようにも聴こえる時代やジャンルを超えた普遍性を感じさせる。知覚を静め、微細な美しさに注意を向けさせるための音楽。

Wolfgang VoigtによるプロジェクトGASの最初期音源をまとめた『November 89』が、〈Kompakt〉から登場。1980年代末から90年代初頭に制作されていた音源で、2008年にアートブック付属CDとしてひっそり初出していたものが、初めてのアナログ化。音像は、後年のZauberbergやKönigsforstに見られる深い森のイメージがすでに息づいている一方で、より荒削りで、塊のように重い質感が特徴。「Der Wald」「Das Moor」では低域のうねりが霧のように広がり、森の奥で響く抽象的な反復がゆっくりと形を成す。「Nah Und Fern」は同名コンピとは異なる影の濃い音像で、GASの美学がまだ固まりきる前の生々しさが際立つ。GASの起源を補完するかのような、森の美学が芽生える瞬間を捉えたアーカイブ作品。

イタリアの電子音楽家Caterina Barbieriと、ノルウェーのサックス奏者Bendik Giskeによる初の共同名義作『At Source』。Barbieriのモジュラー・シンセと、Giskeの身体そのものを楽器化するかのような拡張サックス奏法が純粋な対話として記録されたミニマルなアンビエント作品。ふたりの関係は2019年の共演から始まり、ICA Milanoでのレジデンシーやライブを経て深化。Barbieriの幾何学的なアルペジオと、Giskeの息づかい、キー音、摩擦音まで含む生々しいサックスが音が生まれる瞬間を探るように交差する。宇宙的スケールと親密な身体性が同居するサウンドスケープは、Barbieriの近年の作品群とも、Giskeのソロ作とも異なる第三の領域を切り開く充実作。

韓国の語り歌パンソリの語り口を、太いベースラインとミニマルなグルーヴに重ねる独自のスタイルで世界的に注目を集めるLEENALCHIの魅力を6曲に凝縮した国際版タイトル『Here Comes That Crow』。パンソリ的な語り歌がベースの反復と絡み合いながらリズムそのものを形づくる構造を中心に、声のレイヤーが跳ねるように重なり、ミニマルなのに躍動的なポップ感が際立つ。電子音と生音が混ざり合い、未来的サイケ・ポップの質感の「Bird」やタイトル曲「Here Comes That Crow」、 低域の反復がじわじわと広がり、声の層が増えていく構造が心地よい長尺トラック「Ultimate Prescription」などを収録した、語り歌とベースグルーヴという革新的スタイルを世界向けに再提示する韓国ポップの新しい形。

2016年に〈Editions Mego〉から発表された、Oren Ambarchiの代表作として語り継がれる『Hubris』が、10周年を記念して〈Black Truffle〉より最新リマスターで再登場。Joe Taliaによる精密なリマスターにより、ギターの倍音、電子音の粒立ち、パーカッションの空気感まで、オリジナル以上に立体的でクリアな音像が生まれている。本作は、Ambarchiが『Sagittarian Domain』『Quixotism』で追求した独自のリズムの延長線上にあり、ディスコ/ニューウェイヴの影響を強く感じさせる異形のミニマリズム。20分程の長尺トラックのPart 1では、パームミュートのギターが脈動し続け、その上に電子パーカッションやギターシンセが層を成し、止まらない推進力がトランス感を生む。Jim O’Rourke、Ricardo Villalobos、Arto Lindsayら豪華ゲスト陣が参加し、音が渦を巻くように増殖していくダイナミックな構造も魅力。10年を経てなお新鮮さを失わない、現代エクスペリメンタルの名品。
2019年にメルボルンのアンダーグラウンド・シーンからひっそりと登場した、YL Hooiによる実験的な音の断片集『Untitled』。2017〜2019年に断続的に録音された楽曲は、同じ中心からゆっくりと変異し続けるような構造を持ち、匿名的でありながら強い個性を放つ。氷のように冷たいDIYミニマリズム、霧のように広がるFX処理、そしてゆらめくダブの残響が重なり、現実と非現実の境界に立つような音像を形成する。Hooiの声は抽象的な音の空間にそっと置かれた灯りのように機能し、楽曲全体をひとつの場としてまとめ上げる。煙のように立ち上がり、どこから始まったのか分からないまま姿を現す楽曲たちは、リミナルな風景を連続的に描き出し、内向きの親密さとダブの低域の揺れが共存する独特の質感を生む。 HTRK、CS + Kreme、F Ingersといったメルボルンの同系統のアーティストとも響き合いながら、より内側の空間を描く音楽へと向かう、近年のオーストラリア音響作品の中でも際立った存在感を持つ作品。

ニューヨークの作曲家Mikel Rouseを中心に活動したプロジェクトTirez Tirezの代表作のひとつとして語られる、ベルギーの名門〈Les Disques du Crépuscule〉から1983年にリリースされた『Story of the Year』。Tirez Tirezは、Steve ReichやPhilip GlassなどNYミニマリズムの流れと、ポストパンク以降のアートロックを独自に接続した稀有な存在で、本作でも、反復するギター、シンセのミニマルな構造、乾いたドラム、抑制されたボーカルに、〈Crépuscule〉らしいヨーロッパ的な冷たさと洗練が加わり、NYのアート感覚とベルギーのポストパンク美学が交差する独特の空気が漂う。メロディよりも 質感・構造・反復が前面に出るミニマル・ポップの魅力が際立っており、Talking Headsや80年代前半NYのアートロックと共振しつつ、よりストイックで知的なアプローチが貫かれているのが印象的。
ベルギーのエクスペリメンタル・フォークの孤高の存在、Ignatzが、長いキャリアの中で初めてピアノを中心に据えて制作した最新作『The Water Is Getting High』。2024年に自宅で録音され、親密で静謐な空気感がそのまま封じ込められている。これまでのローファイ・ブルース、フォークの延長線上にありながら、ピアノという新しい媒介によって、より内省的でミニマルな世界が広がる。単音の余韻、ゆっくりとしたフレーズ、部屋鳴りや微かなノイズまでもが音楽の一部となり、深夜の記録のような生々しさと詩情が同居。彼は独学でピアノに向き合っており、その技術的な未完さが、かえって彼特有の壊れやすく繊細な旋律を際立たせている。静謐なミニマリズムと、彼本来の孤独なブルースが溶け合った、独自の詩情感じられる一枚。ローファイ・ブルースの求道者が、ピアノという静かで深い語り相手を得て辿り着いた、最も純粋な告白。
40年以上にわたり、自作楽器Long String Instrumentの探求を続けてきた作曲家/パフォーマーEllen Fullmanの最新作『Elemental View』。本作は100本以上の長大な弦を空間に張り巡らせ、その空間全体を楽器として扱うインスタレーション作品を録音したもの。さらに、ギターやサントゥール、パーカッションを演奏するThe Living Earth Showが参加し、Fullman作品としては珍しいアンサンブル構造が導入されている。Long String Instrumentは、約24mを超える弦を指先で擦りながら歩くことで演奏される。弦の長さの違いによって生まれる倍音は、空間の中で複雑に干渉し合い、音が光の帯のように揺れ続ける独自の音響を生み出す。音がどのように生まれ、どのように空間を移動し、どのように変化していくのか、そのプロセスがそのまま音楽になるというLong String Instrumentの核心を、アンサンブルとの対話によってさらに拡張した意欲作。

〈AD93〉の姉妹レーベル〈Lith Dolina〉からの前作『Surreal』で注目を集めた日本人アーティストBot1500ことShinichi Kobayashiによるセカンド・アルバム『The Black Sea』が〈Short Span〉から登場。全曲高BPMの高いテンションを保ちながら、静けさと陰影を重視した独特のサウンド。音数を絞ったミニマルな構造の中で、湿り気を帯びたシンセがゆっくりと揺れ、パーカッションやブレイクが鋭く差し込む。静寂が音の一部として機能し、余白がリズムの輪郭を際立たせる。日本の海岸の夏夜を思わせる暗く湿ったトーンが漂い、電子音が水面に反射するように広がるダブ的処理が印象的。IDMの精密さとダブの空間性が自然に同居し、内省的でありながら静かな運動性が宿る、独特のテンションを生む充実作。

Inga Copeland名義から続くLolinaの最新作『Monopoly of Mistakes』。乾いたドラムマシン、303系のうねるベースライン、素っ気ないほどミニマルなシンセが骨格を作り、都市の空気をそのまま閉じ込めたような冷たい質感が全編を貫く。ヴォーカルは語りと歌の中間にある距離感のあるスタイルで、感情を抑えた声がビートの隙間に配置されることで、独特の緊張感が生まれている。ビート主導の曲と短い音響的ミニチュアが交互に現れ、断片的な構造で進むが、ミニマルな設計が一貫しているため、作品全体がひとつの世界としてまとまる。様々な音楽性を吸収しながらも、どれにも完全には属さないLolinaの音楽そのもの。

人気作リプレスです!韓国・ソウルを拠点に活動するデュオSalamandaが、植物にまつわる大人気シリーズMusic To Watch Seeds Grow Byに登場。第8弾となる本作は窓辺のバジルの一日を描いた、ミニマルで親密なアンビエント。水滴の落ちる音、時計の針のような反復、植物のゆっくりとした脈動を思わせるビート。Salamanda特有の柔らかい電子音と、生活の延長にあるような小さな音の粒子が重なり、光合成や吸水のスピードに同期したような、独自のタイムレスな感覚が光る。Salamandaの二人が実際に自宅で育てているバジルから着想を得たという背景もあってか、バジルの周囲で起こる小さな出来事を音で描写しつつ、「バジルは自分が食べられる運命を知っているのか?」という哲学的な問いも作品の奥に潜み、穏やかで可愛らしいだけでなく、どこかファンタジーと深い思索が同居する奥深い魅力も併せ持っている。単なるBGMとしてのアンビエントではない、つい忘れてしまう、植物という隣人との静かな対話ともいうべき一本。今回も種、付いてます。
庭園の黄昏 - Every Dog Has His Day」「睡眠の計画 - Plan For Sleep」に続く、初期ダムタイプ音楽作品復刻プロジェクト第3弾。 本作は、1987年に兵庫県尼崎市・つかしんホールで開催された、ダムタイプ初の大規模展覧会『Suspense and Romance』の会期中に、展示会場で行われたライヴ・パフォーマンスの音源を収録したカセットテープ作品です。
山中透がダムタイプとして初めて全楽曲の作曲・制作を手がけた本作は、サックス奏者・ハリー切手氏とのコラボレーションから生まれた音楽プロジェクトを記録しています。 “サスペンスとロマンス”というテーマのもと、ジャズやシネマティックな叙情性と、ポスト・ミニマル以降の冷たく抽象的な音響が交錯する、山中らしいコンポジションに、切手氏による印象的なサックスのフレーズ、シーケンサーやサンプラー、PCM録音を用いた音作りが重なり、その後の「S/N」まで続くダムタイプ・サウンドを象徴する音響イメージが、この時期にすでに形成されていることに気づくでしょう。
さらに、当時の貴重な写真やドローイング、メンバーによる座談会を収録した、50ページ超のブックレットが付属。カセットブック仕様でのリリースとなります。 本ブックレットは、初期ダムタイプ・メンバーらによる「Early Dumb Type Archive Project」の主導のもと制作されたもので、初期ダムタイプの活動を多角的に捉える貴重な資料となっています。
カセットブック(箱入り)
カセットテープ:全10曲・48分収録 DLコード付
ブックレット:50ページ超(写真・ドローイング・小山田徹×高谷史郎×穂積幸弘 座談会ほか収録)
1980年代の日本アンダーグラウンド・ニューウェイヴを体系的に掘り起こす、〈MAWARU RECORDINGS〉によるコンピレーション第2弾『Wa Wave vol.2』。Eiyō BoysやDUPPIなど、日本のニューウェイヴのそのまた影に隠れてきた個性的なアーティストたちを再発見できる構成。クラウトロック的な推進力、電子的なパルス、ガラス細工のように繊細な室内楽的質感、そしてアヴァンなクラブ感覚が混ざり合うサウンド。シリーズ共通のテーマである、80年代日本のアンダーグラウンドの深層をたどるという視点はそのままに、vol.2ではより実験性の強いトラックが揃い、Eiyō Boysのもはやビートと呼んでいいのかさえ危うい極めて日本的な鋭いビートや、DUPPIの奇妙な反復など、当時の世界の雑多さや閉塞感をそのまま音にしたようなトラックが並ぶ。日本特有の、前衛がどこか不思議なところに迷い込んでしまった、神秘的な世界を巡る他に類を見ない音楽の旅。
1980年代の日本アンダーグラウンド・ニューウェイヴを体系的に掘り起こす、〈MAWARU RECORDINGS〉によるコンピレーション『Wa Wave vol.1』。Gekko Imonkyaku、Popsong’s Factory、Funeral Party、Anima、D.R.Y. Project、Tōkyō Gyogyōmuなど、当時の日本のカセットテープ・シーンや自主制作盤に埋もれていた希少アーティストも多数収録。領域を横断する内容で、ポストパンクの緊張感、ミニマルの冷たさ、ノーウェイヴ的な破壊衝動、そして奇妙なユーモアが混ざり合う、ジャンルの境界がまだ曖昧だった時代の自由さが強く感じられるもの。当時の都市の混沌や空気感がそのまま伝わりつつも、日本特有の、前衛がどこか不思議なところに迷い込んでしまう、神秘的な世界を巡る、他に類を見ない音楽の旅。
オリジナルは1972年リリースのドン・チェリーによる、彼の音楽的ヴィジョンをもっとも広く伝える作品として、幅広いファンから支持されている名作『Organic Music Society』。この作品でチェリーは、フリー・ジャズの枠から大きく飛び出し、「音楽は世界共通の言語」という信念のもと、地球規模のサウンド・コラージュに挑戦している。録音は1970年代初頭のスウェーデンで行われ、スウェーデン、トルコ、ブラジル、アフリカ出身のミュージシャンたちが集まった多国籍アンサンブルが参加している。演奏も多彩で、チェリー自身はトランペットだけでなく、ハルモニウム、フルート、コンチ・シェル(ほら貝)、ピアノ、さらには歌まで披露。収録曲は彼自身のオリジナルに加え、テリー・ライリー、ファラオ・サンダース、ダラー・ブランドの楽曲も含まれている。音楽的には、宗教的な儀式を思わせるような瞑想的な曲から、エネルギッシュで奔放な即興演奏まで、振り幅のある構成。どの曲も実験精神に満ちていて、ジャンルを超えた自由さと、深い精神性が共存した一枚。

シカゴ音響派の中心にいた5人が、録音スタジオを楽器として扱いながら作り上げた1994年の革新的デビュー作『Tortoise』。 ミニマル、ジャズ、ダブ、エレクトロニカを溶かし込み、後にポストロックと呼ばれるジャンルの基礎を形作った名盤。メンバー全員がマルチ奏者として楽器を持ち替えながら、リズムと質感を中心に据えたアンサンブルを構築。Tortoiseがもともとベース2名と打楽器3名という珍しい編成で結成されたことからも分かるように、複数のベースが重層的な低音の地形をつくり、3人のドラマーがミニマルな反復とダブ的な空間処理で立体的なグルーヴを生み出す。ヴィブラフォンやパーカッションも加わり、後に開花するアフロビート志向はもとより、ジャマイカン・ダブやエチオ・ジャズの影響が強く感じられ、ヴォーカルやギターソロが無いとは思えない豊かな音像が広がる。ポストロックの原点にして、Tortoiseの美学がすでに完成していたことを示す決定的デビュー作。
'70年代初頭のNYアンダーグラウンド・パンク~ニュー・ウェーヴ・シーンを代表するSuicideのサウンドを担ったシンセ/ドラム担当Martin Revの2000年にリリースされた5枚目のソロ・アルバム『Strangeworld』のジャーマン・ロック/ニューウェイヴ再興の地〈Bureau B〉による再発盤。チープでミニマルなリズムボックスにいかにもメロディックなシンセサウンド、鼻歌のような歌声、そこに突然現前する深すぎるリヴァーブ、エコー、ダブ処理。摩訶不思議なエレクトロ・サイケ・ポップ感が最高です!
ピアノ×ダブテクノの実験音響。即興と反復が織りなすミニマルで幽玄な作品。
探究的コンポーザー、リチャード・パイクによる本作は、ダブテクノとミニマル、クラシカルなピアノを解体/再構築した音響作品。カセット由来のループとピアノによる“リアルタイム・コンポジション”を軸に、親密で粒子的、そして埃をまとったような質感のサウンドが展開される。2023年初頭、坂本龍一の逝去をきっかけにピアノへと回帰したパイクは、日々の即興演奏とテープループの反復を重ねる中で本作を形成。スタジオで収集したループ素材を基に、1950年代製Eavestaffミニピアノで旋律と和声を重ねるプロセスは極めて直感的で、後編集を前提とした純度の高い記録となっている。Romeo PoirierやDeepchord、初期ミュジーク・コンクレートに通じる質感と、“クリック&ポップ”のノスタルジアが交差する、静謐かつ実験的な一枚。

1976年、フランスのアンダーグラウンドでひっそりと録音され、翌77年に わずか200枚だけ自主制作された、Mar‑Vistaによるコズミック・プログレの秘宝『Visions of Sodal Ye』。多楽器奏者J. SkowronとC. Cuvelierのデュオによって4トラックのホームレコーディングで作られた音は、ローファイでありながら、ミニマル・ミュージック、クラウトロック、アヴァンギャルド電子音楽の要素が独自のバランスで溶け合っている。A面は短い楽曲が連なる組曲形式で、霧の中を進むようなサイケデリックな流れを形成。B面は22分の長尺曲「Sodal Ye」が収録され、低音のうねりと反復が続く儀式的で暗いコズミック・ジャムが展開される。手作りの宇宙船で旅しているような質感で、音の粗さも逆に魅力となる、70年代フランスのDIY精神がそのまま封じ込められたような一枚。

メルボルンのアンダーグラウンドから登場したフィメール・デュオSynergy Trilogyによるセルフタイトルのデビュー作。ドリームポップ、ミニマル・ウェイヴ、ゴシック・ミニマリズム、ドリーム・フォーク、そしてスポークンワードのコラージュが滑らかに交差する、静かで鋭い感性に貫かれており、詩と夢の論理を軸に、歌と語りが同じ地平で溶け合う。霧のように淡いシンセと、骨格だけ残したミニマルなフック。ドラムマシンは影のように控えめに脈打つ。スポークンワードは親密で、語りがそのままメロディへ変わる瞬間があり、曲というより場面の連続として聴こえる。硬質なミニマルウェーブの冷たさの中に、フォークの柔らかい温度がふっと差し込み、ロマンティックさと不穏さが同居する独特の空気を生む。From Nursery to Misery、Carla dal Forno、Rose McDowallといった系譜に連なる、メルボルン・アンダーグラウンドの新しい感性を示す一枚。静かな緊張感と繊細な詩情が同時に立ち上がる注目作。

フィラデルフィアを拠点に活動する音響作家Jason Calhounによる、中世神秘家Julian of Norwichの同名著作へのオマージュをタイトルに掲げ、日常の中に潜む神聖さをテーマにした全14曲のアンビエント作品『Revelations of Divine Love』。これまでの長尺ドローン中心の作風から一転し、本作は1〜2分台の短い断片が連なる構成。Calhounがペンシルベニア州の自宅周辺で録音した素材や、微細な電子音、柔らかなノイズを重ね合わせ、小さな情景がふっと立ち上がっては消えていくような質感が続く。音の余白の扱いが非常に巧みで、静けさの中に淡いメロディやパルスが浮かび上がる瞬間が印象的。短い曲の連なりが、まるで小さな祈りのように響く。

「言葉が意味から解放され、音として漂い始める」というコンセプトで、話し言葉の抑揚や呼吸をそのまま音響素材として扱う独自の手法を中心に据えた、ニューヨーク拠点の作曲家Ben Vidaによる『Oblivion Seekers』。Nina Dante、Christina Vantzou、John Also Bennett、Félicia Atkinsonらが声の出演で参加。複数の声が重なり合い、ジェンダーやアクセントが流動的に混ざり合うことで、誰の声でもあり、誰の声でもない集合的な語りが立ち上がる。電子音は控えめに配置され、低いドローンや微細なノイズが声の動きを支えることで、静謐でありながら幻覚的な空間が広がる。静けさの奥で声が多層に漂い、言葉と音の境界がほどけていくその繊細な瞬間をとらえた、声のための実験音響作品。
