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1993年公開の北野武監督作品『Sonatine』の久石譲によるオリジナル・サウンドトラックが〈WRWTFWW〉より再発。久石譲が得意とするミニマル・ネオクラシカルな手法が光る、内省的で静謐なアンビエント調のサウンドトラックで、ピアノ主体で極端な装飾を避け、余白のある構成が緊張と静けさを織り交ぜながら感情を引き立てる。マリンバ、各種打楽器、シタール、逆再生のパーカッション、タブラ的ハモンド演奏など多様な音色を導入しており、特に“Into A Trance”のミニマル・エレクトロ、“Eye Witness”ではシタールによるドローンや尺八風に加工したシンセなどが展開される。久石自身が愛するスコアの一つであり、非常に完成度が高い作品となっている。

2017年に棄世されたフィンランド電子音楽の巨星であり、Pan Sonicでの活動も広く知られる鋼鉄の漢、Mika VainioがØ名義名義で残した最後の作品『Sysivalo』。2017年の逝去直前まで制作していた未発表の素材をもとに、Rikke Lundgreen と Tommi Grönlund が遺されたメモに基づいて仕上げたもので、まさに遺作と呼ぶにふさわしい一枚。全20曲、約60分にわたる構成は、Ø名義の作品の中でも特に短い楽曲を連ねたエチュード形式を採用しており、断片的ながら連続性をもった音のスケッチ集のように展開する。ビートのない楽曲が多くを占め、電子音やドローン、残響の中に細やかな旋律や音響的な陰影が浮かび上がり、静止した時間や感情の余白を強く意識させながら、ノイズや低周波が持つ物質感と、儚いメロディのきらめきが共存する、Vainioの音響的探究の到達点。特に、彼の最も美しい作品のひとつと評される最終曲「Loputon(Endless)」は、透明感と静謐さをたたえた楽曲で、まるでレクイエムのようにVainio のキャリアにおける理想的な結びとなっている。
スウェーデンの異端トリオ、Vanligt Folkが〈iDEAL Recordings〉から放つ最高に奇妙な一作。2ステップ、ノイズ、ダブ、クラブ・ミュージック、ポップの境界をねじまげ、気味の悪いフックや呻き声のようなボーカルを交えて、不穏なグルーヴを次々に展開する。テーマは友情、セックス、暴力、ドラッグといった生々しいものだが、表現はあくまで印象派的で抽象的で、フロアでも部屋でも異様な存在感を放つ。サウンド的にはローファイなエレクトロ・ノイズとも共鳴するが、Vanligt Folkのユーモアと奇妙さはやはり唯一無二。よれた2ステップにノイズをまぶした「DISKDASKO」、アシッドと呻きが絡む「ÜNG GÜD」、奇妙にキャッチーな「TJUF」など、全編通して不安定で落ち着かないが、どこかクセになって、妙に馴染む音楽。何かが起こりそうで起こらない、その境界をずっとさまようような一枚。

エチオ・ジャズの創始者、ムラトゥ・アスタトゥケが約10年ぶりに発表したスタジオ・アルバム『Mulatu Plays Mulatu』が〈Strut Records〉より登場。60〜70年代にエチオピア音楽の歴史を塗り替えた自身の代表曲を、熟練のUKバンドやアディス・アベバのジャズ・ヴィレッジに集う現地ミュージシャンと共に新たなアレンジで再演した一枚。西洋ジャズの洗練されたアンサンブルに、エチオピア伝統楽器クラール、マセンコ、ワシント、ケベロ、ベゲナの響きを重ね、豊かな質感と複雑なリズム、自由な即興で名曲たちをアップデート。ムラトゥが長年追い求めてきた「エチオ・ジャズを世界に伝える」という夢の集大成であり、近代的な音楽理論やジャズ教育を受けたわけではないけれど、古くから口承や地域の慣習の中で培われてきた伝統的なエチオピア音楽の中で独自に音楽理論や演奏法、作曲技法を基礎付けた、「エチオピアの無名の音楽科学者たち」への敬意も込めた作品。ロサンゼルスのカルロス・ニーニョ、キブロム・ビルハネら現代アーティストも参加し、伝統と現代性、エチオピアと西洋が深い次元で融合されている。巨匠!
デトロイト・テクノのパイオニア、カール・クレイグのキャリアを追ったドキュメンタリー映画の公式サウンドトラック『Desire: The Carl Craig Story』が自身のレーベル〈Planet E〉から登場。本作には、彼の膨大なアーカイブから代表曲やレア音源が多数収録されており、たとえば、デトロイト・テクノの原点を象徴する1曲「No More Words」、約25年ぶりに広く再発となるDesigner Music名義の「The Truth」、2013年のCDコンピ『Masterpiece』にのみ収録されていたアンビエント曲で、今回、映画のエンドロールを飾る「Meditation 4」、ほかにも、69、Psyche/BFC、Innerzone Orchestraといった別名義作品や、モーリッツ・フォン・オズワルド、フランチェスコ・トリスターノとのコラボレーションも収録。映画自体は、クレイグの生い立ちから世界的アーティストへの道のりを、デトロイトの衰退と再生と重ねながら描いており、ギレス・ピーターソン、ロニ・サイズ、ローラン・ガルニエ、DJミンクス、ケニー・ラーキン、ジェームズ・ラヴェルらがインタビュー出演している。カール・クレイグの革新と美学を総覧する、デトロイト・テクノの記憶と魂を刻んだ決定版。
1941〜42年頃、国際文化振興会が制作したSP盤シリーズの一部で、戦前の日本で録音された伝統音楽の記録。当時制作された78回転盤は60枚に及ぶ大規模なセットだったが、戦争やその後の散逸で現存するものはごくわずかとなっており、本シリーズは、その失われかけた記録を修復する試みであり、日本の伝統音楽の真髄を伝える重要な歴史資料でもある。本作に収録されているのは、能楽、琵琶、尺八の伝統音楽で、琵琶は、盲僧琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶をバランスよく紹介し、尺八は、普化尺八、琴古流尺八、都山流尺八、民謡尺八の四つの種類の尺八音楽となっている。明治以前から活動していた師匠に学んだ能楽の大家たちの演奏も含まれており、間といい、流れといい、後世の演奏ではうかがい知れない、当時ならではの本物の空気がここに残されている。

タカオが長い月日をかけた待望のニューアルバムを携えて帰ってきた。『The End of the Brim』は、普遍的な聴きやすさを理想に掲げ、前作『Stealth』の抽象的エレメントから一転、具象的強度をもった曲、しなやかなリズム、メロディーの展開、洗練されたハーモニーに焦点を合わせている。タカオの未来を見据えたビジョンは、本作を他に類を見ないタイムレスな作品へと昇華させ、ポップミュージックの可能世界を示す。この不思議な「非絶対音楽」的アルバムを解読した柴崎祐二の解説も必読!
『Stealth』(2018年)、同作をセルフ・リメイクした『Stealth (Gold Edition)』(2021年)に次ぐ通算3作目、完全新曲では2ndアルバムとなる『The End of the Brim』は、『Stealth』発表直後に着手されました。小品を組み立てたトータルピースである『Stealth』と風景の違う、一曲一曲が強度をもち自立してもいる世界を構想したタカオは、自分にとってこれまでにない試みのため協力者を必要とし、DJのeminemsaikoをスーパーバイザーに起用。このチームでトライ&エラーを繰り返していく過程で、堀池ゆめぁ(「Music Room」)、クリステル・ベレ(「Fall」)、カラード・ミュージックの藤本敦夫(「Main Theme」)をヴォーカリストに迎え、ミツメの川辺素、細野晴臣やムーンライダーズ等の仕事でも知られるエンジニア、原口宏も加わってアルバムは精妙に彫刻されていきました。『The End of the Brim』は、形式上は音楽家の個人的なものを表明するはずの「ソロ」アルバムですが、その表明の様式は直接的なものではなく、そこには委嘱作を請け負うコマーシャルな職業音楽家へのオマージュというタカオのユニークな意志が埋め込まれています。ゆえに本作は、音楽理念を職業音楽家=客観的な遂行者という一種の概念を介して記述しようと試みた「自身が発注者でありその発注者であるところの自身を表明する標題音楽」といえるような二重・三重の手順を踏んだ重層的な作品です。皆さんの未来の密やかな愛聴作になることを願ってやみません。本作の装丁画は大谷透、デザインを坂脇慶が担当。
=作品仕様=
+ 通常ジュエルケース、帯
+ 12頁ブックレット
+ 解説:柴崎祐二、英語・日本語併記
TRACKS:
01. Long
02. Mar
03. Music Room (歌詞と歌:堀池ゆめぁ)
04. ARP
05. SPE
06. Images
07. Fall (歌詞と歌:クリステル・ベレ)
08. CF
09. Main Theme (歌詞:川辺素、歌:藤本敦夫)
10. The End of the Brim
ポルトガルの電子音楽家 Rafael Toral 待望のニューアルバム『Traveling Light』が〈Drag City〉より登場。前作『Spectral Evolution』でのギターへ回帰しつつ自作エレクトロニクスと融合する試みをさらに推し進めており、本作ではなんとジャズ・スタンダードを題材としている。「Easy Living」「Body and Soul」「My Funny Valentine」「God Bless the Child」など、20世紀前半を代表する6曲が、ギター、ベース、自作エレクトロニクス、改造テルミンを組み合わせた仮想オーケストラのようなサウンドによって、楽曲が幽玄なドローンや電子的な鳥のさえずりのような音へと姿を変えており、旋律や和声によって原曲の影が残りながらも、オルガンのような持続音やテルミンのうねりに包まれて、どこか宗教音楽や初期電子音楽を思わせる響きとなっている。さらに各曲には管楽器奏者が一人ずつゲスト参加し、クラリネット、テナーサックス、フリューゲルホルン、フルートが登場。伝統的なジャズの親しみやすさと、Toralならではの抽象的な音響が重なり合う傑作。
billy woodsの2015年作『Today, I Wrote Nothing』が、リリースから10年を経てリイシュー。本作は彼の広大なディスコグラフィの中でも、最も実験的でスケッチ的な傑作で、リリース当時はBlockheadとの共作『Dour Candy』や、『Race Music』に続くリリースだったが、両作の延長ではなく、むしろ構成もテーマもバラバラな断片のコレクション。全24曲は、ジャズの埃っぽいループ、幽霊のようなソウルのサンプル、軋むフィールド録音にラップを乗せた、詩的な断章集のようだが、暗いムード、孤独、不安、暴力といったモチーフが通底し、woods特有の知性と皮肉がにじんでいる。政治でも社会でもなく、もっと私的で、曖昧で、日記的なwoodsの一面がここにある。ロードムービー的な閉塞感と、死や失望の予感が漂う、くすんだ断章形式のヒップホップ。
1999年発表のミニマル・ラーガドローン歴史的名作!1982年にLa Monte YoungとMarian Zazeelaがタンブーラ2台を使用した、歴史に刻まれるべくドキュメント。それらは彼等のGuru = Pandit Pran Nathへの、強い敬意の意味でもあります。
延々と続く渦の様なタンブーラの太いドローンがモアレのような効果を生み出し、瞑想状態そのものの様な状態を搔き出した高純度な瞑想的作品。44Pのブックレット付。
1941〜42年頃、国際文化振興会が制作したSP盤シリーズの一部で、戦前の日本で録音された伝統音楽の記録。当時制作された78回転盤は60枚に及ぶ大規模なセットだったが、戦争やその後の散逸で現存するものはごくわずかとなっており、本シリーズは、その失われかけた記録を修復する試みであり、日本の伝統音楽の真髄を伝える重要な歴史資料でもある。本作には座敷芸としての三味線音楽や、関西を中心に発展した地歌、複数の歌を組み合わせた組歌などを収録している。間といい、流れといい、後世の演奏ではうかがい知れない、当時ならではの本物の空気がここに残されている。

2015年の設立以来、アーカイヴ発掘からローカルな実験音楽、世界各地とのコラボレーションまで、音楽のアンダーグラウンドを自由に横断してきた〈Bongo Joe〉による、10周年を記念して編まれた『10 Years of Sonic Explorations』が登場。その多様で反トレンド的なカタログの精神を凝縮したコンピレーションで、ジュネーヴからボゴタ、イスタンブール、リロングウェまでの、ローファイなグルーヴ、生々しいヴォーカル、ひねくれたリズム、ジャンルを飛び越えるサウンドが並ぶ。Altın Gün、Hyperculte、Mauskovic Dance Bandといったおなじみの顔ぶれに加え、Alain Peters、Meridian Brothers、Madalitso Band、Derya Yıldırım & Grup Şimşekらのレア音源も収録。初期の名曲から近年の発見まで、周縁を大切にしてきたレーベルの包括的なビジョンを描いており、回顧ではなく、音楽をつながり、記憶、羅針盤として信じてきたその姿勢を改めて確認する一枚。レーベル名の由来ともなった、30年以上ものあいだ商業的な場を拒み、街角でドラム缶を叩き続けたテキサスのストリートパフォーマー George “Bongo Joe” Coleman のDIY精神と自由な姿勢は、今も〈Bongo Joe〉の根幹を支える光となっている。

La Monte Young, Terry Riley, Henry Flynt等、ミニマル・ミュージック~Fluxus等のアート界にも多大な影響を与えたインド古典ヴォーカリスト、Pandit Pran Nath (1918-1996)がアメリカへ来る前に録音していた、1968年インドでの録音作Ragas Of Morning & Night(1986年にGramavisionからリリース)が遂に直弟子La Monte Youngのレーベルよりオフィシャル再発!
A面には目覚めに相応しい生命力に満ちた朝のラーガRaga Todi、B面にはゆったりとしたタブラのリズムに流されて行く夜のラーガRaga Darbariを収録。当時ラモンテ夫妻が、68年頃のPandit Pran Nathの録音物を聴き、その声に惚れ込んで渡印したという逸話がありますが、この音源は同年の録音であるところを見ると、恐らく彼らの推薦で1986年にGramavisionからリリースされたのでしょう。Ustad Abdul Wahid Khan(Pandit Pran Nathの師匠)から脈々と続く瞑想的なキラナ・ガラナが完全純度で結晶化した傑作。
“The land of Kanada, Gopal Nayak, the romance of the Mughal courts, Mian Tansen, classicism,
blue notes, imagination, an ancient virtuosic performance tradition handed down for centuries
from guru to disciple, Ustad Abdul Wahid Khan, lifetimes of devotion – all of these together
and more make up Pandit Pran Nath’s Darbari, a masterpiece, a gift to our time.”
–La Monte Young and Marian Zazeela

Sir Richard Bishop(Sun City Girls)によるひとりアコースティック・ギターだけで挑む、原始衝動むき出しの一枚はアメリカン・プリミティヴを踏まえつつも、そこにインド古典音楽のラーガの解釈を織り込み、秩序や安定から外れたリズムと動きに焦点を当てた、荒々しい独奏集。彼が語るところによれば、目指したのは基本への回帰で、エフェクトも電気もオーバーダブも一切なし、あるのはギター一本と自分の手だけ。アメリカン・プリミティヴが「原始」と名乗りながら、実際には整然としすぎていることへの反発から、あえて無鉄砲に、予測不能な展開を打ち出す。その姿勢は、山奥で誰からも教わらず独自のフォークロアを鳴らす孤高のヒルビリーをイメージしたものだという。『Salvador Kali』『Improvika』『The Freak of Araby』といった探求的な作品群で培ってきた感覚を、ここでは極限まで削ぎ落としており、9曲それぞれが、深い森をひとり分け入るかのような探索であり、外界と切り離された音楽の放浪記でもある。ヒルビリーの神秘家による異形のフォーク伝承。
2025年リマスター仕様、ボーナストラック付属!Rashad Beckerによるマスタリングにて30周年記念エディションとしてヴァイナル再発!ボーナストラック付属。Brian EnoやRobert Frippからインスパイアされた音響ドローン・ギター・サウンド!90年代には「最も才能豊かで革新的なギタリストの一人」と称され、そして、Sonic Youthのメンバーたちにも愛されたポルトガルの一大音響作家、Rafael Toralが同国のAnAnAnAより1994年にリリースし、ジム・オルーク氏の名音響レーベル、Moikaiからも再発されているファースト・アルバム名作。
長らく廃盤であったトラル初期の重要作品が嬉しい再発!イーノのアンビエント作品を爪弾くJohn Faheyのごとく、美麗で優しい極上アンビエント・ドローン。彼が実際に影響を受けている通り、My Bloody Valentineを感じる人もいるでしょう。ゆっくりと動くノスタルジックな音色は懐かしいフィルム写真の情景を心に浮かばせるかのようであります。たとえ雑多な街角にいても、自然の中へと還るような、そんな穏やかで優しい気持ちになる響きです。私たち生きとし生けるものの原風景というと大げさかもしれませんが、私はそのようにすら感じます。まさにタイムレスな一枚。

トロント拠点のアーティスト Rita Mikhael による新プロジェクト Trailcam 名義での第一弾リリース。以前は インダストリアル〜ノイズ~クラブの領域を自在に横断していた彼女だが、この作品ではさらに広い視野を持ちながら、自身の音楽性をより深く掘り下げている。幕開けはヒップホップ的なビートを取り入れたインストで始まり、そこから抽象的で質感に富んだサウンドへと展開。ドラムマシンとサンプルを軸にしたループ感がありつつ、そこにノイズや音響実験を混ぜ込んで、抽象性と肉体性が同居するサウンド作り出している。従来のクラブ・トラックとしての強靭さは残しつつも、よりパーソナルで内省的な側面が前面に出ており、音響の奥行きや余白があり、瞑想的とすら感じさせる瞬間がある。DJ ShadowやFlying Lotusの影響を遠くに感じつつ、インダストリアルやアンビエントの質感を独自に掛け合わせたような、自宅で深いリスニングにも耐えるアルバム。トロントで書かれ、ローマの EnissLab で Giuseppe Tillieci がマスタリングを担当。アートワークは本人によるもので、ヴィジュアル面も含めて強く自主性を感じさせる仕上がりになっている。※入荷時より僅かにプラケースにヒビ部分あります。予めご了承くださいませ。

環境音楽の重要人物、広瀬豊のまさかの新作『Voices』が〈WRWTFWW〉より登場。80年代の名盤『Nova』で知られる彼が、ここにきて届けたのは往年の静謐なサウンドスケープとはまったく別の景色と言えるもので、フィールド録音、ざらついたサンプル、ガタついたリズムマシン、そしてサイケなシンセが入り乱れる、混沌としたコラージュ作品となっている。幕開けを飾る12分超の「Library」は、その象徴で、都市の雑踏、映画の断片、即興的な声、ラジオのノイズ、ジャズのフレーズ、ビートの残骸が次々と交錯し、音の奔流に呑み込まれる。単なる音楽というより、まるで意識の中をそのまま垂れ流したよう。また、アルバムの要所には「The Other Side」シリーズと題されたバレアリックな実験的なテクノが挿入され、奇妙な環境音との交差が軽妙なバランスを生んでいる。さらに「Uprising」では呪術的なIDM、「Mixture」では鳥の声や雑談を絡めながらブリットルなビートとアシッド・シンセを展開。過去の沈静的な作風を知るリスナーほど驚かされる本作は、『Nova』や『TRACE』で再評価された広瀬豊の現在地が刻まれた一枚。環境音楽の先駆者が、いま再びラディカルな実験精神を前面に打ち出した充実作。
Dale Cornishによる、クィア・クラブ文化と前衛的エレクトロニカを巧みに融合させたフルアルバムが登場。Cornish はこれまで No Bra とのエレクトロクラッシュ、Baraclough 名義でのノイズ・プロジェクト、2010年代のデコンストラクション系クラブ音楽などを手掛け、独自の音楽性を育んできたが、本作では、大胆なクラブ実験と内省的な語りによって、性別適合手術の経験や人間関係の機微を描きながら、ラフで歪んだダンスミュージックや、Cronx語で歌われるビターで切ないバラードを自由に行き来する。音響的には、硬質なクラブビート、歪んだシンセ、微細なノイズ、声やサンプルの細やかな処理が絶妙に組み合わさり、身体的な引力と精神的な内省が同時に味わえる構造になっている。即興性と前衛性を備えたクィア・クラブ・エレクトロニカの最前線を体現し、20年にわたるアンダーグラウンドの経験を詰め込んだ、ユーモアと正直さに満ちた一枚。
2025年リマスター仕様!「アルヴィン・ルシエ meets マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン」と評される名作!Jim O’Rourkeの盟友でもあるポルトガル実験音響界のレジェンドであり、当店でも大人気のレジェンドRafael Toral。同氏が95年にセカンド・アルバムとして残した傑作『Wave Field』がリマスタリング仕様で〈Drag City〉よりアナログ再発。Toralが「音符ではなく音そのもの」に焦点を当てる転換点となった作品。Alvin Lucierの『I Am Sitting in a Room』や、1993年にリスボンで鑑賞したNirvanaとBuzzcocksのライブ体験(特に、会場の劣悪な音響が生み出した「液状化したロックサウンド」)からインスパイアされたとの事。その他、My Bloody Valentineの『Loveless』やSonic Youthなどからの影響を受けつつも、それらを独自に昇華した本作は、90年代のポルトガルにおける特異な実験的音楽シーンを代表するドローン/アンビエントの傑作。名エンジニア=Rashad Beckerによってマスタリングされ、オリジナルの意図をより忠実に再現した決定版。ロックやアンビエント、ドローン、ノイズの境界を曖昧にする、時代を超えたマスターピースです!

北イングランドを拠点に活動する15人編成のスピリチュアル・ジャズ大所帯Ancient Infinity Orchestraによる、愛とつながりが音にあふれたメロディックなスピリチュアル・ジャズ。リーダーのOzzy Moyseyによる美しい作曲を軸に、メンバーそれぞれが即興で寄り添い、心温まる広がりのあるメロディが花開いていく。編成は非常にユニークで、ダブルベース2本、ハープ、サックス、クラリネット、弦楽器群、オーボエ、フルート、マンドリン、コンガ、ピアノ、ドラム、そして様々な小物パーカッションまで揃い、ライブや録音では床に楽器を散らし、思いついた瞬間に手に取って音を重ねる自由な雰囲気。友人同士でもあるメンバー間の信頼感が、広大でありながら親密、土の匂いがするのに宇宙的でもある独特のサウンドを生み出している。愛をアルバム全体を包み込むテーマとして据え、フォーク、ジャズ、クラシックなど多様な伝統音楽の素養を持った奏者たちが、作曲という器の中でそれぞれの表現を解き放つ。焚き火を囲んだ即興的な賛美歌のよう。

和製コズミック・サイケ/アンビエントの秘宝。今年2月7日に逝去した日本の音楽シーンにおける最大のレジェンドのひとり、Magical Power Makoが、1993年に自主制作で発表した知られざる音宇宙『Next Millennium Vibrations』が、アートワークを新装し、リマスタリング仕様でCD再発!祈りのようなシンセサイザーの波動、メディテイティヴな旋律、そして内面宇宙を旅するようなスピリチュアルな浮遊感。クラウトロック〜ニューエイジ〜環太平洋の民族音楽までを呑み込みながら、誰にも似ていない独自のサイケデリックなサウンドスケープを形成。極私的な録音の中に潜む、未だ聴かれぬ「次の千年」の響き。まさに未来への密やかな手紙です。

Salamanda、Tristan Arpによるリワークも収録!シンガポール生まれ、ロンドン在住のプロデューサー、Yingtuitiveによるパーソナルなデビュー作『Letters To Self 寫情書』。クラシック・ピアノの訓練を受け、東南アジアの伝統音楽と電子音響、ディアスポラ的視点を織り交ぜた音楽は、内省的で感情豊か。シンガポールとイギリスでのフィールド録音、ピアノによる即興演奏、ガムランにインスパイアされた響き、映画のサンプル、繊細なエレクトロニクスが、アンビエント、エーテルな音像へと昇華されている。「このアルバムの音楽の瞬間すべてが、私自身への手紙」と語る通り、ホームシック、アイデンティティの揺らぎ、喧騒の中での静けさをテーマに、自分自身との対話を音で描き出している。
ノルウェーを代表するアンビエント作家Biosphereの『The Way of Time』が大名門〈AD93〉より登場!本作はElizabeth Madox Robertsの小説『The Time of Man』からゆるい着想を得て、Joan Lorringナレーションによる1951年のラジオドラマ版の抜粋が取り入れられている。南部訛りの哀愁ある語りが、ゆったりとしたループや静かなシンセサウンドと絡み合い、アメリカの田舎の空気とシンプルなアンビエントの対比を生み出している。Biosphereらしい深い静けさと広がりはそのままに、人間味のある、記憶を辿るような自己洞察的なトーンが印象的な作品になっている。
カタルーニャの女性ヴォーカルデュオ、Tarta Relenaによる2作目『És pregunta』が〈Latency〉よりリリース!本作では、メンバーのHelena Ros RedonとMarta Torrella i Martínezは地中海の豊かな声楽伝統をベースに、古代ギリシャ語、ラテン語、カタルーニャ語、ラディーノ語など、地中海世界に息づくさまざまな言語を用いて、過去と現在、聖と俗の境界をたゆたうような音楽を紡いでいる。フラメンコや宗教歌、電子音楽の要素を交えながら、運命や知、未来への葛藤といったテーマを深く掘り下げている。ジョージアの嘆き歌や中世の修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの霊的作品からも影響を受けたサウンドは、土着的でありながらも時代を超越した響きを持ち、まるで時間そのものが溶けていくような感覚を呼び起こす。素焼きの壺を打楽器として用いた古代的なリズムや微細なエレクトロニクスと共に、声だけで時間と空間を繋ぐような演奏は、現代フォークロアの革新と呼ぶにふさわしい一枚。
