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フランスのサウンドアーティストThomas Tillyが、コロンビア・リオクラロ自然保護区で録音した 洞窟性鳥類グアチャロの巨大コロニーを記録した作品『Birds Measuring Space』。鳥類では極めて珍しい可聴域でのエコーロケーションを持つ種で、その鋭いクリック音や叫び声が洞窟の壁に反射し、空間そのものを測定するような音響現象が立ち上がる。本作は編集や加工を一切施さず、現場で起きている音の構造をそのまま提示する点が特徴。数千羽が渦を巻くように集まる場面では、金属的なノイズが層を成し、自然音の美しさと暴力性が同時に現れる。さらに各トラックの間には、録音の残留ノイズやエコーロケーション信号の断片をネガとして扱った分析パートが挿入され、生物音とデジタル処理の境界が揺らぐ独特の質感を生む。鳥=美しい歌というロマン主義的自然観を批評しながら、自然環境の複雑な物理現象を音として提示する、フィールド録音と音響芸術の交差点に位置する一枚。
長年、架空の土地の音楽を探求してきたMike Cooper が、さらに鮮やかな第四世界的エキゾチカを描いた新作『Stochastic Parrot』。ラップスティールの揺ライダ気配、歪むフィールド録音、断片化されたサンプルが重なり、まるで半分夢、半分記憶の風景がそのまま音になったような質感。さらにPierre BastienとMark Cunninghamのブラスが加わることで、儀式めいた気配や遠い街の影が音の中に立ち上がり、Cooperの架空の地理がより立体的に広がっていく。手打楽器、ドラムマシン、環境音が互いに衝突し、複数の夢が同時に進行するような多層のリズムが生まれるのも特徴的。ゆらめく熱気、夜の儀式の前触れのような不穏さ、ジャズ・フュージョンの亡霊がふっと現れる瞬間など、Cooperの音響世界がカレイドスコープ的に展開する不思議と心地いい一枚。
Push For Nightによる、前作の重い暗さから一歩だけ外へ踏み出し、わずかな光を取り込んだ新作『That Porous Line』。その変化を決定づけたのが、長年の音の盟友David Daniellの参加。彼がもたらした有機的な美しさが、PFNの音をよりメロディックで自発的な方向へと再配置している。ギター、ベース、鍵盤、パーカッションを指で触れるリアルタイム演奏へ回帰したことで、加工の重さが少し軽くなり、音の中に柔らかい揺れや不完全な瞬間がそのまま息づく。とはいえ、PFNの核であるコラージュ的でちらつくエレクトロ・アコースティックの質感は健在で、薄暗い空間の中で幽霊のような音が動き、影が形を変えながら漂う独特の世界観が続いている。有機的な美しさとリアルタイム演奏の揺れを取り込みながら、独特の暗がりとコラージュ的質感を新たな角度で響かせた作品。
シドニーの美術館で長く共に働いてきたJ.WLSNとLiam Keenanが、2024年末に友人のスタジオで録音した初のコラボレーション作品『Country / The Country』。ふたりが育った西シドニー〜ニューサウスウェールズ州の平野、山影、郊外という広い地形の記憶を、ギター、モジュラー、サンプルの長尺レイヤーで静かに描き出す一枚。乾いた倍音、かすかに歪んだ気配、霧のようなパッドがゆっくりと重なり、風景の空気そのものが音になったような質感。テープループの揺れやフェリックなノイズが、過去の記憶を曖昧にしながら少しずつ形を変え、時間の外側で漂う場所のスコアを作り上げていく。広い空、湿った郊外、遠くの山影が、抽象的な音の層として静かに立ち上がる。〈Room40〉の風景的アンビエントの流れにありつつ、ふたりの個人的な地理的記憶が核になった、静かで広がりのある長尺作品。

Lawrence Englishによる、『Wilderness of Mirrors』『Cruel Optimism』へと続く三部作の最終章として位置づけられる『The Rest Is My Ghost』。Swans、The Necks、Mats Gustafsson、Chuck Johnsonら多数の演奏者が参加し、重層的な倍音、濁りを含んだテクスチャ、声の粒子がゆっくりと積み重なり、巨大な音の風景を形成していく。美しい層の中に微かな汚れが混ざり、過去の記憶が変質していくような質感が印象的。楽器の輪郭はあえて曖昧化され、リバーブや干渉音によって誰の音か分からないが確かにそこにある幽霊的な響きが生まれる。静けさから始まり、徐々に圧力を増し、地鳴りのような質量へと変化する構造は、Englishが語る「未来の可能性を再び開くための音」の姿そのもの。政治的・文化的な批評性と、アンビエントの深い音響美が同居する一枚。

国際的評価を集めるエレクトロニック・ミュージック・アーティスト冥丁が、
『古風』三部作を追伸し辿り着いた最新作『瑪瑙』をリリース。
公演を重ねる中で深化し続けた楽曲の構造が再編され、鮮烈な哀愁をもって結実した。
2020年から2023年にかけて発表された三部作『古風』において、冥丁は“自明でありながらも幽微な存在として漂う日本”の印象を「失日本」と名付け、日本文化から失われつつある感覚や記憶を現代的な感性で再構築してきた。最新作『瑪瑙』は、『古風』を追伸し、進化させた作品である。
長い時間をかけて層を成し、圧力と沈殿を経て形成される鉱物・瑪瑙の生成過程を音楽的思考の比喩とし、粒子が積み重なり、層をなし、やがてひとつの質感となるように、冥丁は過去の作品と向き合い続けてきた。
本作には、『古風』三部作の楽曲を再構築・拡張した作品群に加え、新曲も収録されている。日本・欧州・アジアを巡るツアーで、ライブハウスや文化財、歴史的建造物など多様な空間で演奏を重ねる中で変化してきた楽曲の構造や時間感覚が再編成され、現在の冥丁の視座から再提示されている。環境によって息遣いや佇まいを変え、時間の流れとともに革新してきた音。その堆積が本作に刻まれている。
20代の頃より京都に身を置き、自転車で町を巡りながら夜の路地や寺社仏閣、池に浮かぶ月影、暮らしの奥に潜む気配を見つめ続けてきた冥丁にとって、日本とは単なる固定された様式ではなく、辺りを漂い続ける印象であった。そこで着想を得た音楽を「失日本」と名付け、誰もが感じる言葉にならない繊細な感覚を音として提示してきた。
『古風』三部作は、民俗、怪談、演劇、忘却された都市の記憶といった断片を素材としつつ、単なる歴史の再現ではなく、現在の視点から過去を見つめ直す試みでもあった。『瑪瑙』では、その視線がさらに内側へ向かう。過去を参照するのではなく、過去を抱えながら今を前進する姿勢が鮮明に表れている。朽ちゆく音の層を漂う声、非伝統的に用いられる古楽器、明確な終止を持たない旋律。そこには、日本的感性を問い続けてきた冥丁の現在地が示されている。
本作のジャケット原画は、京都・西陣の唐紙工房「かみ添」による京唐紙作品を基に制作された。京唐紙とは、版木を用いて和紙に文様を写し取る、京都に古くから伝わる装飾技法である。平安時代より、寺社や町家を彩り、日本の美意識と共に受け継がれてきた。冥丁が「失日本」という視点から日本的感性を再解釈してきたように、「かみ添」もまた伝統技法を現代の感性で再構築している。本作では、その原画をもとにアルバムのアートワークの仕様として印刷再現している。
タイトルの書は、冥丁が自ら台北で声をかけたBio Xieによるもの。海外公演の折に台湾で感じた、現代の日本から失われつつある時代を越えて残る記憶の残り香。そのような背景とBio Xieの漢字表現が響き合い、本作への参加が実現した。
ライナー写真は、前作『泉涌』のビジュアルも手がけた写真家・岡本裕志によるもの。冬の海、孤高の断崖、砕ける波。それらは、広島で過ごした十年間の内面的な孤独な葛藤を象徴している。
マスタリングは、Flying Lotus、Madlib、J Dillaらの作品を手がけてきたKelly Hibbertが担当。
『瑪瑙』は、「失日本」という視点を掲げ続けてきた冥丁が、さまざまな経験を重ねた先に見出す現在の姿。
それは、時間の堆積の中から立ち上がる、新たな音楽の結晶である。
【Tracklist】(*カッコ内は説明)
1. 覇王(未発表新曲)
2. 新花魁(古風 2020年「花魁Ⅰ」再編成)
3. 新貞奴(古風 2020年「貞奴」再編成)
4. 新和蝋燭(古風Ⅲ 2023年「和蝋燭」 再編成)
5. 旧劇(古風Ⅱ 2021年「忍」「黒澤明」再編成)
6. 新花魁Ⅱ(古風 2020年「花魁Ⅱ」再編成)
7. 新江戸川乱歩(古風Ⅲ 2023年「江戸川乱歩」再編成)
フランス電子音楽の中心機関〈INA‑GRM〉が、創設30周年を機にまとめ上げた5枚組CDボックス『Archives GRM』。〈GRM〉から〈INA‑GRM〉へ改称した1974年から30年後の2004 年に編纂、ミュージック・コンクレートやエレクトロアコースティックの発展に決定的な役割を果たしてきた膨大なアーカイブから、GRM系重鎮作家の音源を収録。収録作家は、Luc Ferrari、Pierre Boulez、Bernard Parmegiani、Edgard Varèse、Iannis Xenakis、Philippe Arthuys、Ivo Malec、Dieter Kaufmann、Francis Dhomontなど、電子音響史を語る上で欠かせない巨匠がずらり。〈GRM〉が追求してきた音の研究の多様性と深さを一望できる構成に加え、80ページに及ぶブックレットに加え、各ディスクにも詳細な解説冊子が付属する、音響実験の歴史を体系的に辿れる決定版。
1974年、パリで録音されながら長らく未発表だったByard Lancasterのファンク寄りセッション『Funny Funky Rib Crib』が、〈Souffle Continu〉により初の公式リリース。多楽器を自在に操るLancasterと、Keno Spellerのパーカッションが組み合わさり、〈Palm Records〉期の実験性とファンクが同じ軌道で響く。サックスは熱量を保ちながら、ファンク的な反復リフとフリージャズ的な飛翔を行き来し、フルートやバスクラリネットは柔らかい陰影をつくる。ピアノやオルガンは骨格を支えつつ、時にスピリチュアルジャズ的な高揚を生み出す。さらに電子処理が加わり、独特の質感が立ち上がる。Keno Spellerのパーカッションは儀式的な反復と跳ねるグルーヴを同時に生み、タイトルのFunny、Funkyが示す遊び心をしっかり支えている。フリージャズとスピリチュアル、ファンクの濃密な交差点。

1975年に制作され、長らく入手困難だったAnnea Lockwoodの代表作『World Rhythms』が、〈Room40〉によって再構築・再発。5台のリール・トゥ・リールデッキと巨大なゴングを用い、自然界の音を多層的に重ねたマルチチャンネル・フィールド録音の最初期作品で、火山の轟き、波のうねり、カエルの合唱、沸騰音、鳥の声、遠くの機械音など、環境音を素材ではなく世界の脈動そのものとして扱い、音がゆっくりと重なり、ほどけ、また現れる壮大な音響風景を構築する。自然音がオーケストラのように響き、時間の流れそのものを聴くような環境音楽・サウンドアートの金字塔。オリジナル37分版に加え、6つのパートに再構成された新バージョンを収録。36ページのブックレットには制作背景や資料が豊富に掲載され、アーカイブとしても決定版と言える内容。

底知れず深い音の清流を織り上げ続ける、世界的な評価も非常に高い日本のサウンド・アーティスト、鈴木昭男。Lawrence English主宰の名音響レーベル、[ROOM40]より、その記念碑的デビュー作「Analopos」が40周年を記念し、リマスタリング仕様で待望の公式再発!オリジナルはコジマ録音の自主盤ブランド、吉沢元治や佐藤聰明、East Bionic Symphonia等々、数々の現代音楽/アヴァン・ジャズの遺産の数々が残された[ALM Records]から80年に200枚限定でリリース、某マーケットプレイスでは16万以上で取引されていたこともある鬼レア盤。1979年に名古屋アメリカ・センターで行われたパフォーマンスをレコーディングした作品で、ヴォイスからターンテーブル、ガラス・ハーモニカ、そして、自身でデザインした創作楽器「アナロポス」を用いた一連の即興作品を2曲収録。数多くの現代作家を招聘した南画廊の画廊主、志水楠男氏に捧げられた一作でもあります。コラボレーターでもある名サウンド・アーティスト、Aki Ondaを聞き手に迎えた鈴木氏の長編インタビューや同作のヒストリーを掲載したブック(28P)も付属。限定盤。音楽の深遠へとそのまま連なる表題曲”Analapos”で是非撃沈してください。

底知れないほどに深い音の清流を織り上げ続ける、世界的な評価も非常に高い日本のサウンド・アート先駆者、鈴木昭男。Lawrence English主宰の名音響レーベル、〈ROOM40〉より、1994年にベルリンで録音されたアルバム『Stone』が30周年を記念し、待望の公式再発。1941年に平壌で生まれた鈴木氏による最初の作品は1963年に名古屋駅でバケツいっぱいの無作為な物体を階段から投げ落とししたものであり、その後、「投げる」と「追う」というプロセスを探求してきた同氏。本作には、その「投げて追う」という実践を記録した"Hinabi"という楽曲も収録されています。オリジナル録音からのリマスタリング仕様。長年のコラボレーターとして知られるDavid Toopのエッセイも収録。

John Zornや巻上公一などとの共作でもおなじみ米実験音楽界の大ベテランDavid Shea。実に14歳の頃から「洞窟」と音や儀式、仏教の教えの関連性へと魅了されてきた彼が、般若心経のテクスト、アンビエント、現代音楽、フィールド録音を緻密に組み合わせた、深い内省へと沈み込む音響作品『Meditations』。古いレコードの断片、声の影、電子音の揺らぎ。それらが丁寧に重ねられ、抽象的な物語性と儀式的な空気を生み出している。静寂とざわめきがゆっくりと入れ替わる構造は、まるで呼吸のように自然で、聴くほどに精神の奥へと導かれていく。瞑想的でありながら、どこか緊張感を帯びた音の流れは、Sheaの音で映画を作るような独自の手法が最も美しく表れた瞬間。外界の喧騒から離れ、内なる深層へと静かに沈んでいくための音楽。
フィンランド生まれ、オーストラリア育ちの作曲家、ダブルベーシストHelen Svobodaによる最新作『Headwater』が〈Room40〉から登場。16の短い断片から構成される本作は、フィンランドの歌い手Selma Savolainen、シドニーのベーシストJacques Emery、そして電子音楽家Tilman Robinsonを迎え、2本のダブルベース、2つの声、そしてエレクトロニクスを軸に、記憶や自己の輪郭が揺らぎながら形を変えていくような独自の音世界を描き出す。Svobodaの低音は、ただ支えるだけでなく語るように動き、擦過音やハーモニクスが繊細な表情を生む。そこにSelma Savolainenの透明感ある声が重なり、北欧的な響きと現代音楽的な緊張感が同時に立ち上がる。曲はどれも短く、場面が次々と切り替わるが、断片が連鎖することでひとつの大きな流れが生まれ、夢の中で記憶が浮かんでは消えるような感覚を呼び起こす。ジャズ、現代音楽、サウンドアートの要素が自然に交差し、音が空間の中でゆっくりと形を変え、聴き手の意識の奥に静かに染み込んでいくような感触のある一枚。
結成15周年を迎えたシカゴの音響デュオClearedによる、電子音、フィールドレコーディング、アコースティック断片を長尺の音響風景として編み上げた最新作『Lustres』が〈Room40〉から登場。Clearedの制作は、個別に録音した素材を互いに送り合い、加工し、再び組み直すという独特のプロセスが核となる。本作でも、古いデジタル録音機の荒れた質感と、最新スタジオのクリアな音像が同じ平面に並置されることで、時間の層が折り重なるような音の深みが生まれている。フィールドレコーディングの微細な粒子、低周波の揺らぎ、ギターやパーカッションの残響が、判別できないほど加工されながらひとつの地形のように連なっていく。彼らが長年探求してきた素材の再構築をさらに推し進め、暗い輝きを放つ音響世界を描き出した逸品。
前衛音楽集団Musica Elettronica Viva(MEV)の中心人物として知られ、50年以上にわたり電子音響と環境音の境界に身を置き続けてきたAlvin Curranによる、1970年代に録音された未発表テープ素材をもとに、現在の視点で再構築した新作にしてアーカイブ作品『ARCHEOLOGY // ARCHEOLOGIA』。収録されているのは、VCS3やSergeモジュラーによるアナログ電子音、環境音の断片、テープの揺らぎといった70年代当時の素材を、Curran自身が現在の耳で再編集した2曲。「Le Serra」では、アナログ特有の不安定な揺れが長い時間の層を描き、電子音の粒子がゆっくりと浮かび上がる。「Othello By Night」では、環境音のコラージュとドローンが交差し、遠景と近景が入れ替わるような空間が広がる。Curranの作品に通底する、音を配置するセンスの鋭さは健在で、音数は決して多くないが、ひとつひとつの音が長く尾を引き、空白の時間が音の意味を変えていく。1970年代の未発表素材を未来へ向けて再構築した重要な一枚。
40年以上にわたり、自作楽器Long String Instrumentの探求を続けてきた作曲家/パフォーマーEllen Fullmanの最新作『Elemental View』。本作は100本以上の長大な弦を空間に張り巡らせ、その空間全体を楽器として扱うインスタレーション作品を録音したもの。さらに、ギターやサントゥール、パーカッションを演奏するThe Living Earth Showが参加し、Fullman作品としては珍しいアンサンブル構造が導入されている。Long String Instrumentは、約24mを超える弦を指先で擦りながら歩くことで演奏される。弦の長さの違いによって生まれる倍音は、空間の中で複雑に干渉し合い、音が光の帯のように揺れ続ける独自の音響を生み出す。音がどのように生まれ、どのように空間を移動し、どのように変化していくのか、そのプロセスがそのまま音楽になるというLong String Instrumentの核心を、アンサンブルとの対話によってさらに拡張した意欲作。
オクラホマを拠点にアンビエント、フォークロア的電子音楽を探求してきたBrad E. Roseによる、落ち葉を踏む音という最小の物音から始まった、環境と人間の関係性をめぐる音響作品『The Sound Leaves』。アルバムの前半は、来場者が落ち葉の上を歩くと、その音がマイクで拾われ、リアルタイムで処理され、木立の中に設置されたスピーカーから響き返されるというインスタレーションの録音をもとに構成。乾いた葉が擦れる微細なノイズ、足音のリズム、風の気配。それらが電子処理によって柔らかく広がり、音は大きく変化しないようでいて、細かな揺らぎが積み重なり、時間の流れそのものが音として感じられるよう。後半の「In Collapse」は、同じ素材を1年後に再処理したもので、音像はより暗く、深く沈み込む。遠くで鳴る低周波の揺れ、葉の擦過音が影のように漂い、環境の変化が音の質感に刻まれていく。音を通して環境の変化を聴くという体験を形にした、サウンドアート的作品。

Inga Copeland名義から続くLolinaの最新作『Monopoly of Mistakes』。乾いたドラムマシン、303系のうねるベースライン、素っ気ないほどミニマルなシンセが骨格を作り、都市の空気をそのまま閉じ込めたような冷たい質感が全編を貫く。ヴォーカルは語りと歌の中間にある距離感のあるスタイルで、感情を抑えた声がビートの隙間に配置されることで、独特の緊張感が生まれている。ビート主導の曲と短い音響的ミニチュアが交互に現れ、断片的な構造で進むが、ミニマルな設計が一貫しているため、作品全体がひとつの世界としてまとまる。様々な音楽性を吸収しながらも、どれにも完全には属さないLolinaの音楽そのもの。
裸のラリーズは1976年当時、水谷孝(Vo/G)と、結成時のメンバーでもあった中村武志(G)に加え、頭脳警察やだててんりゅうに参加してきたヒロシこと楢崎裕史(Ba)、吉祥寺のライブハウス「OZ」の元スタッフでOZバンドのメンバーでもあったサミーこと三巻敏朗(Dr)という編成になった。
「この時期のラリーズは最高潮だった」という見解を示すラリーズ研究家は少なくない。
事実、76年には間章氏の主導により、英ヴァージン・レコードとの契約を見据えたレコーディングを行なう一方、75年にオープンしたばかりの渋谷の屋根裏にて、月1回に近いペースで精力的なライヴ活動を展開。
前年に続き、石川県で開催された野外フェスティバル「第3回夕焼け祭り」(8/3~4)にも参加している。その際、北陸への遠征に合わせてブッキングされたのが、7月29・30日に京都「拾得」で実現した二夜連続公演だった。
1973年に開業した「拾得」は、酒蔵を改装した独特の作りで知られ、京都を代表するライヴハウスの老舗。
以前からラリーズは京都公演を行なっていたが、彼らにとって地元とも言える古都でのライヴには、常に多くの熱狂的なファンが駆けつけたという。
このたび発見されたテープは、7月30日の拾得での音源で、マランツのラジカセの内蔵マイクによって録音されたもの。
残念ながら最後に演奏された「The Last One」の途中で切れてしまっているが、この音源に秘められたポテンシャルに気付いたプロデューサーの久保田麻琴は、再びその手腕をふるい、生々しいダイナミズムを甦らせ、アルバムへとまとめ上げた。
「京都でのラリーズは何かが違う、音が違う」と関係者が証言する通り、このテープからは、拾得の空間で鳴り響いたとは信じがたい、巨大なスケールのサウンドが聴こえてくる。
中村の堅実なサポート・プレイとともに、荒々しいグルーヴを生むヒロシのベース、激しく叩きまくるサミーのドラムが瑞々しいエネルギーを迸らせ、それらに呼応するかのように水谷のギターも、いつも以上にエモーショナルな表情を見せる。
『’77 LIVE』にも収録された「氷の炎」および「Enter the Mirror」を比較すれば、その差異に多くの者が驚くだろう。
拾得から8ヶ月後、水谷/中村/ヒロシ/サミーという同じラインナップの演奏である『’77 LIVE』では、奇跡的な"OVER LEVEL"現象によって孤高の音像が捉えられたが、それとは大きく異なるものの、『拾得 ’76』にもまた、この瞬間のラリーズでしか現出しえなかった唯一無二の音像が記録されている。
セットリストが『'77 LIVE』とは大幅に変わっていることも、新鮮な印象を呼び起こす。「夢は今日も」「カーニバル」「お前の眼に夜を見た」の3曲が初めての作品化。
「造花の原野」はアップテンポでアグレッシヴなヴァージョンで、さらに「イビスキュスの花」も『The Last One〈Poésies : Les Rallizes Dénudés〉裸のラリーズ詩集』に付属したものとは全く違うハード&ヘヴィな曲になっており、これらも実質的に初公開と言っていい。
バンドの核にあったプリミティヴなエネルギーがダイレクトに記録された本作『拾得’76』は、<『’77 LIVE』と対に置かれるべきアルバム>なのかもしれない。
●アナログ・レコードにはボーナス・トラック(ギターソロ)を収録。
●76年当時、ラリーズのスタッフを務め、拾得公演にも同行していた"脇"氏がライナーノーツを寄稿。
●この公演でサイド・ギターを担当した中村武志(現在はフォトグラファー中村趫として活動)が、2025年の拾得を再訪して撮影した写真をアートワークに使用。
■収録楽曲:
Side A
1. 夢は今日も / Dream Again Today
2. 造花の原野_1976 / Wilderness of False Flowers_1976
3. 白い目覚め / White Awakening
4. Guitar Solo 1(ボーナス・トラック *Vinyl Only)
Side B
1. カーニバル / Carnival
2. 氷の炎 / Flame of Ice
Side C
1. Guitar Solo 2(ボーナス・トラック *Vinyl Only)
2, 夜、暗殺者の夜 / The Night, Assassin’s Night
3. お前の眼に夜を見た / Saw the Night in Your Eyes
Side D
1. イビスキュスの花 或いは満ち足りた死 / Hibiscus Flower otherwise Dying Satisfied
2. Enter the Mirror
「私は今あなたと違う部屋に座っています。私は自分の話し声を録音しています。部屋の共鳴周波数がそれ自身を強化していくことによって、リズムの要素のみを除いて私の話し声が完全に破壊するまで、録音と再生を繰り返します。その時点であなたが聞くものは、私の話し声によって表現された部屋の自然な共鳴周波数そのものであります。私はこの運動を、私の話し声が持つ帯域の不規則さを滑らかにする方法として考え、この現象自体を明らかにすることを意識はしていないのです。」
現代音楽家Alvin Lucier(1931-)による、オリジナルは1981年発表の名作「私は部屋に座っている(1969)」が再プレス。
特定の空間に響く話し声を、何度も声が不明瞭になるまで録音再生を繰り返すことによって、その空間にある特有の周波数を露わにする音響工学的探求作品。
タージ・マハル旅行団やFluxus、さらにマース・カニンガム舞踏団での活動など、前衛音楽の歴史に深く刻まれた小杉武久の探究心が最もストレートな形で結晶化した、1989年ニューヨーク録音のソロ作品 『Violin Improvisations』。ヴァイオリンという単一の楽器から驚くほど多層的な音響世界を引き出しており、擦過音、倍音、微細なノイズ、澄んだ高音、弱音のささやき、それらがディレイによって重なり、まるでひとりでアンサンブルを構築しているかのような立体感が生まれる。旋律を奏でるというより、音が生まれては消える瞬間そのものを扱う即興で、音の質感・空気の振動・空間の響きがそのまま作品の主題になっている。微妙に揺れる音程や間の扱いに漂う東洋的な感覚と極めて抽象的が両立した、小杉武久という音楽家の核心に触れられる重要作。 ※入荷時よりケースにヒビがございます。予めご了承くださいませ。

アイルランドの伝統音楽の常識を覆すダーク・フォーク・バンド、Lankumのフロントマンであり、その卓越した音楽的探求心とアイルランドの呪われた歴史、伝承を受け継ぐIan Lynchによるソロ・プロジェクトOne Leg One Eyeによる、前作『…And Take The Black Worm With Me』で提示した、アイルランド神話の深層を掘り起こすドローン・フォークを、さらに強烈な形で押し広げた2ndアルバム『CRONE』。本作は、アイルランド神話に登場する主権の女神をテーマに制作され、怒り、狂気、美しさが同居する儀式的で呪術的な音世界が展開。重く濁ったドローンの層に、語り・祈り・呪文のような声が絡みつき、伝統的なフォークの枠を完全に逸脱した、神話の深層へ潜る音楽として成立している。ゲストにはアイルランド演劇界の重鎮Olwen Fouéréが参加。老いた女神の化身のような圧倒的な声が、作品全体に霊的な緊張感を与えている。
徹底したアヒンサーを提唱実践、「ノイズ」の枠を超越したオルタナティヴな表現を試み続けるジャパノイズ伝説、Merzbowに、Mats Gustafsson、Balázs Pándiというフリー・ジャズ界の巨星たちを加えた伝説的なトリオの最新作『CUTS CUT』。長年のコラボレーションが到達した、ノイズ×フリージャズの極限的インプロ作品。ノイズとフリージャズの境界が完全に溶解する45分の巨大な即興の塊。

アンビエント・映画音楽界の知られざる巨匠
マイケル・ブルックの2作品が2枚組で〈4AD〉より奇跡のリイシュー
アンビエントの先駆者ブライアン・イーノをはじめ
ロジャー・イーノ、ダニエル・ラノワら豪華メンツが参加
U2の楽曲などに使用された改造ギターとして有名なinfinite guitarの発明者としても知られるカナダ人ミュージシャンのマイケル・ブルック。1992年に〈4AD〉から発表した『Cobalt Blue』は、静かに、息をのむようなサウンドスケープで構成された、時代を超える名作として、年月を経て再評価されている。同作には、アンビエントの先駆者ブライアン・イーノ、作曲家/マルチ奏者としてロジャー・イーノ、そしてグラミー受賞プロデューサーのダニエル・ラノワが参加。同年後半に録音された『Live at the Aquarium』は、ロンドンで行われた貴重なソロ・パフォーマンスを収録したもので、マイケル・ブルック特有の催眠的なサスティン、広がりのあるテクスチャー、そして大気のような深い音の世界を捉えている。
85年のデビュー・アルバム『Hybrid』から92年のセカンド・アルバム『Cobalt Blue』リリースまでの7年間。マイケル・ブルックはブライアン・イーノのレーベルでありマネジメントでもある〈Opal〉と契約し、故郷のトロントからイギリスへ移住。イーノやラノワとのコラボレーション、ジョン・ハッセルとのツアー、ロジャー・イーノやハロルド・バッド、ララージらと共に伝説的なライブ・プロジェクト Opal Evenings に参加しながら、ステージでのループ処理、シーケンサーや音響処理における実験的な新境地を切り開いた。しかし、『Cobalt Blue』が完成した直後、〈Opal〉は配給契約を失い、リリースは中止。マイケル・ブルックは当時について「〈4AD〉のアイヴォ・ワッツ=ラッセルと友人だったので、彼がアルバムを出してくれると申し出てくれた。しかし、リリース後も長い間、十分な反応は得られなかった。音楽プレスがジャンル分けしにくいものを避けていたから...。だから当初は世間の評価がわからなかったんだ。まるで荒野で泣くギターのようだった。」と語っている。同期間、ピーテル・ノーテンと共作の〈4AD〉アンビエントの名作『Sleeps with Fishes』(87年) をはじめ、精力的な活動の中でヌスラト・ファテー・アリー・ハーンやユッスー・ンドゥールらワールド・ミュージックの巨人たちともコラボレーションを行った。それらの膨大な刺激と経験を吸収していた結果生まれたのが『Cobalt Blue』であり、リリース当時は十分に評価されなかったものの、年月を経てその名声と影響力は高まり続け、卓越したキャリアにおける重要な転換点であることが証明されている。
その後、1996年にはヌスラトとのアルバム『Night Song』でグラミー賞にノミネート。2008年には名作映画『Into the Wild』のサウンドトラックでゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。『El Infierno』では2011年ハバナ映画祭の最優秀音楽賞を受賞。映画音楽作曲家としても卓越している彼は、50本以上の映画に携わっている。2024年にプロデュースしたヌスラトのアルバム『Chain of Light』は、Guardian紙のワールド・ミュージック・アルバム・オブ・ザ・イヤーに選出。もちろん、これらの輝かしい功績は、『Cobalt Blue』の制作を始めた頃には、まだ未来の話だった。『Cobalt Blue』で生まれたサウンドは「厳密にはアンビエントではない」とマイケル・ブルックは語る。よりリズミカルでメロディアス、彼はそのマテリアルを Wordless Songs (言葉を持たない曲) と表現している。この推進力と変化への志向は、優先順位の転換 ーある種の反逆心ー を表していた。
