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フォークを土台にしながらも、サイケデリック、トロピカルなラテン音楽、ローファイ・ポップ、そしてヒッピー的な精神世界を溶け合わせた、とびきり自由で奔放な作品『Cripple Crow』。アシッド・フォークを21世紀にアップデートしたかのような、2005年に〈XL〉から発表されたデヴェンドラ・バンハートの名作は、「Freak Folk」や「New Weird America」といったムーブメントの先駆けとして、当時のインディ・フォークに大きな影響を与えた。今回、そのリリースから20周年を記念してデヴェンドラ自身の新レーベル〈Heavy Flowers〉から初の再発盤が登場。オリジナル2LPに加え、クリア・グリーン・スモーク仕様のボーナスLPを追加した全3枚組仕様。ボーナスLPには未発表デモ5曲、未発表ライヴ2曲、当時録音された埋もれた名曲1曲、そしてB面トラック1曲の計9曲が収録。デヴェンドラならではの子どもじみた無垢さと老成したスピリチュアリティが再び!

エストニア・タリンを拠点に活動し、レフトフィールド・ハウスやアンダーグラウンド・クラブ・ミュージックの文脈で知られるDJ、音楽家のRobert Nikolajevによる限定150部のLP作品『Transplant Rejection』がウクライナのレーベル〈Muscut〉から登場。本作ではクラブ志向とは異なるローファイで粒状の質感とセピア調のノスタルジアが印象的な、ダーク・アンビエント/エレクトロニカを展開しており、より個人的で静謐な側面が表れている。音の構成は、ぼやけたシンセのレイヤー、微細なノイズ、断片的なメロディが交錯し、まるで記憶の中の風景を手探りで辿るような感覚を呼び起こす。Nikolajevが丁寧に編み上げる孤独と記憶のための音楽にリズムはほとんど存在せず、時間の流れさえ曖昧になるような構造の中で、聴くものは音の余白に身を委ねる。永遠の冬を予感させる秋のメランコリーを体現したような、内省的で物悲しい雰囲気を持つ、架空のサウンドトラック的な作品集。

アイルランド出身のエクスペリメンタル・アーティスト Olan Monk による愛、喪失、風景、記憶といったテーマを断片的でコラージュ的な音楽スタイルで描いた『Songs for Nothing』が〈AD 93〉より登場。ローファイ・シューゲイズ、サイケデリック、エクスペリメンタル・ロック、アイルランド民謡の要素が混在しており、ギターのフィードバック、ノイズ、アナログな質感のビートが、ゆったりとした民謡的メロディや語りのようなヴォーカルと交差し、冷たさや無機質さを感じさせる音の質感でありながら情緒的でもある独特なサウンドを形成している。Maria Somervilleをフィーチャーした「Down 3」や「Fate (Reprise)」など、ゲストとの共演も印象的で、アルバム全体にアイルランドの自然と精神性が深く染み込んでいる。録音はアイルランド西海岸・コナマラの自然環境の中で行われ、海藻が腐る海岸、花崗岩の丘、深い森から顔を出す古代の木々といった風景が音の中に静かに息づいているようで、ローファイな質感と自分の内に静かに沈んでいくような感覚が共存する、内面的な旅の入り口にもなりうる充実作。
英国サウス・ロンドンの知られざるデュオ、JemimaによるデビューLPがAll Night Flightレーベルよりリリース。リスナーの内面に深く静かに染み入る、ローファイ・フォークの新たな地平線を切り拓く傑作の登場です。
同レーベルからリリースされたMegabasseをはじめ、Brannten SchnüreやGrouperなどのアーティストの実験性とも響き合いながら、本作においてJemimaは、楽曲の「構築」よりも「気配」の生成に重きを置いているようです。繰り返しの中でわずかに揺らぐギターのアルペジオは、ほとんど溶けて聞き取れない語り声や環境音、ノイズと絡まりながら、とても親密で個人的な音の箱庭風景を織り上げていきます。囁くようなボーカルは言語としての意味を超え、まるで空間そのものが語りかけてくるような錯覚を引き起こします。
この音の中に身を置いていると、まるで、窓を少しだけ開け放ち、静かに流れ込んでくる外気や遠くの生活音を感じるような、日常でふとした時に立ち上る特別な時間がふと蘇るようです。
現代イタリアのアンダーグラウンド・シーンから現れた、ナポリ出身の音楽家 Lucia Sole によるプロジェクト La Festa Delle Rane(カエルたちの祝祭) の新作カセット・テープを、英国の All Night Flight と共同でリリースします。
Luciaの音楽は、日常の中を通り過ぎていく断片的な風景をそっとすくい取るようにして綴られ、いつか見た夢の記憶を呼び起こすような、子どもの視点から覗いたような不思議な郷愁に満ちています。
メロディカ、アコースティック・ギター、笛などによるシンプルな楽器構成が生み出す静かな親密さと、太鼓や管楽器が加わることで広がっていく万華鏡のような即興性が共存しています。
少女のように無垢な歌声、ささやくようなグロッケンシュピール、歪んだオルガンが空気に残す音の波紋は、ローファイな録音のなかで捉えられており、空間の気配や微かな息づかいまでがそのまま音に封じ込められています。


ここ数年にわたるDean Bluntとの共演やソロ活動が印象的なグラスゴー拠点のJoanne Robertsonの新作『Blurrr』が〈AD93〉より登場。本作はつぶやくような歌声とミニマルなギターが織りなす、時間の隙間に咲く花のような親密さと、ため息のような美しさに満ちており、どの曲も肩の力を抜いたまま深く胸を打つ。半分壊れたマイクに録音されたかのようなRobertsonの声と、歪んだテープのような音響処理が溶け合い、時が止まるような余韻を残している。Laurel HaloやMalibu作品でも知られるOliver Coatesが3曲で共演しており、彼のストリングスはただの装飾ではなく、Robertsonの声と溶け合い、感情の余白をより際立たせている。GrouperやCat Power、Arthur Russell『World of Echo』の系譜に連なる、静かで壊れやすく、圧倒的に美しい音楽。
" dean blunt & Elias Rønnenfelt - lucre LP. Single-sided, 180g vinyl "

12月中旬入荷予定。オリジナルは1998年リリースの、USインディーシーンの大御所Yo La TengoとJad Fairによる異色のコラボレーション・アルバム『Strange But True』。本作の最大の特徴は、言葉のテーマ設定にあり、アルバムのすべての曲名は、「奇妙だが真実」というタイトルが示す通り、突飛で信じがたいような新聞の見出しから取られており、Jad Fairが歌詞を担当し、ユーモアとシュールさに満ちた独自の物語世界が展開される。Jad Fairは、ナイーヴで即興的なローファイ・アートロックの先駆者で歌というより語りに近い、ユニークなボーカルスタイルは本作でもその魅力を存分に発揮している。一方、Yo La Tengoは各曲に異なる音楽スタイルでアレンジを加え、ローファイからサイケ、ドリームポップまで幅広い音像を展開。Jad Fairの突飛なアイデアを、Yo La Tengoが音楽的に包み込んでいるような、他に類を見ない奇妙だけど、クセになる一枚。


Domenique Dumontによる4thアルバム『Deux Paradis』が〈ANTINOTE〉より登場。これまでと同様にミステリアスで夢見心地な雰囲気に包まれた作品で、内なる世界のためのダンス・ミュージックとして、日常のリズムや恋愛の起伏、人生の移ろいまでもを静かに描き出していく。アルバムは朝の目覚めを描くカラフルなダブ「Enchantia」で始まり、「La Vie Va」、官能的な疾走感をもつ「Amants Ennemis」とともに、太陽の軌跡をなぞるように展開。夜が訪れると、きらめくポップ「The Order of Invisible Things」や、80年代フレンチポップ Desirelessへのさりげないオマージュも感じさせる「Visages Visages」など、黄昏時のロマンティックなムードに染まっていく。さらにバロック的な雰囲気を感じさせる「Deux Paradis」や、柔らかなエキゾチカ「Visiteur de la Nuit」がアルバムに幻想的な彩りを添える。2022年から2024年末にかけて、ラトビアのリガ、パリ、エストニアの小島ヒーウマーで制作された本作は、これまで以上に豊かな音色と大胆さを兼ね備え、どこか懐かしくも掴みどころのない郷愁を感じさせる。まるでエリック・ロメールの映画のワンシーンのような、時代や場所を超えたロマンティシズムが静かに息づいている。

オークランド拠点のデュオ、Cuneiform Tabsによる2作目のアルバム『Age』が、Cindy Leeの数多の名作をリリースしてきたレ-ベル〈W.25TH〉より到着。本作は、サイケデリックなドローン感覚と淡いポップネスをより全面に押し出し、前作で特徴的だったノイズや霞がかった質感を少し抑えることで、ポップの芯をはっきりと浮かび上がらせている。フレーミング・チューンズやCindy Lee、アニマル・コレクティヴの初期作品を思わせるムードのなかに、サイケな実験精神と甘美なポップセンスが同居している。制作は前作同様、マット・ブレイルとスターリング・マッキノンがベイエリアとロンドンのあいだで4トラック・テープをやり取りしながら進めたもので、Tascamやシンプルなソフトを駆使した手作りの音像が土台になっている。ただし今回は宅録感を越えて、ソングライティングの力そのものがしっかりと光っていて、収録曲はどれも催眠的でありながら確かなポップの引力を持っている。ベッドルーム・ポップと実験的サイケが交差する地点を鮮やかに描き出した、現行シーンでも際立つ一枚。
スウェーデンの異端トリオ、Vanligt Folkが〈iDEAL Recordings〉から放つ最高に奇妙な一作。2ステップ、ノイズ、ダブ、クラブ・ミュージック、ポップの境界をねじまげ、気味の悪いフックや呻き声のようなボーカルを交えて、不穏なグルーヴを次々に展開する。テーマは友情、セックス、暴力、ドラッグといった生々しいものだが、表現はあくまで印象派的で抽象的で、フロアでも部屋でも異様な存在感を放つ。サウンド的にはローファイなエレクトロ・ノイズとも共鳴するが、Vanligt Folkのユーモアと奇妙さはやはり唯一無二。よれた2ステップにノイズをまぶした「DISKDASKO」、アシッドと呻きが絡む「ÜNG GÜD」、奇妙にキャッチーな「TJUF」など、全編通して不安定で落ち着かないが、どこかクセになって、妙に馴染む音楽。何かが起こりそうで起こらない、その境界をずっとさまようような一枚。

スウェーデンのマルチ奏者Gustav Horneijによるソロ・プロジェクトOrganic Pulse Ensembleによる、すべての演奏・録音・ミックスを本人一人で手がけた、瞑想的かつ民族的なスピリチュアル・ジャズ作品『Zither Suite』。タイトルにもなっている「チター」は、地元のチャリティショップで偶然見つけた楽器で、アルバム全体の雰囲気を決定づける象徴的な存在となっている。録音はヨーテボリ郊外の自宅アパートで行われ、宅録ならではのDIY精神に満ちた親密な音像が印象的。Pharoah SandersやDon Cherryを彷彿とさせる自由な即興性と、スウェーデンの民謡に基づく旋律が交錯し、特に「Jämtland」ではスウェーデンの地方に伝わる古い民謡や伝統音楽が現代のジャズと融合している。全6曲はそれぞれ異なる精神性とリズムを持ち、全体を通して、祈りのような静けさと、内面への深い問いかけを感じさせる。現行の宅録シーンから生まれた、至福感のあるスピリチュアル・ジャズ傑作。

ロンドンを拠点に活動するLukidことLuke Blairによる断片的なメロディとくすんだ音の質感を組み合わせた、静かで抽象的なエレクトロニック・アルバム『Underloop』が〈Death Is Not The End〉から登場。本作はループを軸にした音響構築が特徴的で、最初はラフで不定形に聴こえる音が、ループを重ねるにつれ、徐々に緻密で感情的な構造をあらわにしていく。まるでDJセットの合間に流れるような、ざらついた短編スケッチのような曲が並び、曖昧さと明瞭さの境界を行き来するような聴き心地となっており、本作では抽象と感情のバランスを探るような作風で知られるLuke Blairの、シンプルさの中に捉えがたい感覚を織り込む手腕が際立っている。その音像は、都市の夜の残響や、記憶の断片が浮かんでは消えるような感覚を呼び起こし、聴く者を静かな没入へと誘う。ノスタルジーや感情の揺らぎを、過剰な装飾を排した音の断片で描き出す美学が静かに、しかし力強く響く一本。



ニューヨークのアンダーグラウンドMC Sensationalと、ブラジル出身のプロデューサーBruno Tonisiによる、奇妙で幻想的な音のやりとりを記録した作品『Sensational Conversations』が、サンパウロ拠点のオブスキュア系発掘レーベル〈Lugar Alto〉より登場。2人は実際に対面したことはなく、Brunoが憧れの存在だったSensationalにコンタクトを取ったことで、このプロジェクトが始まった。ただしこれは普通のコラボではなく、まるで壊れかけたラジオを通して交信しているような、ノイズまじりの「符号」のような音楽。アルバムはヒップホップを土台にしているが、その形を大胆に解体。GRMがNYのロフトで汚れ仕事を始めたようなサウンドデザインで、ぼやけた声、壊れたビート、不安定なリズムの中に、ふとした瞬間に感情がにじみ出る。その不安定さや歪みにこそリアルな手触りがある一枚!

大推薦!Anyことアナスタシア・パテリスによる新作『MEGA MERCY』が〈sferic〉より登場。クレタ島でのスクワット生活と教会のスピーカーから鳴った深夜のギリシャ正教の説教から着想を得たという、非常に個人的でユニークな作風で、ビートテープやフィールド録音の断片、粗野なサンプルが雑然と組み合わされながらも、どこか禅的な静けさや慈しみが感じられる構成になっている。ハープの音が精神的な軸として通底していて、そこにティルザやアストリッド・ソンネ、ナラ・シネフロあたりに通じる雰囲気が漂う。全体を通して、都市の喧騒から離れたスローで曖昧な時間感覚が支配していて、どの曲も明確な展開を持たず、湿った夜のような、浮遊する感覚が続く。焼けた地中海の風景と内省的な音の断片が織りなす、いびつで美しい幻視の記録。

ドイツ系スペイン人アーティスト、ウォルフガング・ペレスがリオ・デ・ジャネイロでの18か月におよぶ滞在と交流を経て完成させた、ブラジル音楽への深い愛情にあふれたアルバム『Só Ouço』。ジルベルト・ジルやトン・ゼー、ジョアン・ジルベルトといったブラジル音楽のレジェンドたちのエッセンスを、現代的でアートポップな感覚に落とし込んだ作品になっていて、ボサノヴァの柔らかさやサンバの律動に加えて、電子音の軽やかな介入や構造的にひねりのあるアレンジが加えられており、決して懐古的にはならず、むしろ、ジャンルにとらわれない柔軟な耳でブラジル音楽を解釈し直したような印象がある。シンプルで親しみやすいメロディに、リズムの遊びや曖昧にゆらぐハーモニーが折り重なり、どの曲も小さな旅のような印象。アルバムは、地元の若手プレイヤーたちとのジャムやセッションから生まれた楽曲で構成されており、まるでリオの空気をそのまま閉じ込めたような、軽やかで温かなグルーヴが心地いい。異国から来たペレスの視点が、逆にブラジル音楽の魅力を一層引き立てており、異文化的な距離感がむしろ音楽に瑞々しさを与えている。
