1950年代から1960年代にかけ、アフリカ系アメリカ人たちが法的平等と市民権を求めて繰り広げた〈公民権運動(Civil Rights Movement)〉。マーティ
ン・ルーサー・キング・ジュニア牧師やマルコム・Xといった偉大な指導者たちを先頭に、同運動は全米へと拡大していきました。しかし同期間中、白人優位主
義者、KKK、そして一部白人警官たちの妨害行為は常軌を逸した過激な暴力へと発展。両指導者の暗殺やデモ中の衝突なども含め、死傷者は数百から数千人にの
ぼると伝えられています。このように多くの命が奪われながらも、最終的には人々の声が届けられ、1964年には公共施設利用や雇用における人種隔離と差別を
法律で禁止する公民権法が成立。1965年には投票権法も制定され、アフリカ系アメリカ人の社会・政治参加への道が開かれました。
こうしてアフリカ系アメリカ人たちの歴史を劇的に変えた公民権運動。その背後で絶え間なく流れ続けていたのは、自由を求め立ち上がった〈民衆たちの歌
声〉でした。1955年のモンゴメリー・バス・ボイコット事件を発端に展開された、路線バスへの乗車ボイコット運動、黒人の利用を拒む食堂、売店、劇場、公
共設備などで行われたシット・イン(座り込み)、キング牧師の「I Have a Dream(私には夢がある)」の演説でも有名な1963年のワシントン大行進、全国
で繰り広げられた大規模なデモ行進…こうした険しい道のりを支えてきたのは、名もなき民人々の魂の叫びが集結した〈歌〉にほかなりません。
同期間中に最も多く歌われたのは、ゴスペル・ソング「This Little Light of Mine」(③⑪)、そして賛美歌「We Shal Overcome(勝利を我らに)」
(㉖)。奴隷制度が敷かれていた時代より、アフリカ系アメリカ人たちの間で歌い継がれてきたこれらの賛美歌、スピリチュアル、ゴスペルは、この公民権運動
の中で新たな意味を持つようになっていきました。また、若い世代の参加者が増えていくにつれ、新しいスタイルの音楽も導入されるように。この動きはポピュ
ラー・ミュージック・シーンにも波及し、フォーク、ブルース、R&B、ソウル、ファンク、ジャズ、ロック・シーンにおいても、プロテスト・ソングの名作が続々
と誕生していくこととなりました。
本作は、公民権運動中の1960年代に、アラバマ、ジョージア、ミシシッピ、テネシーで録音された、賛美歌、演説、スピリチュアル、ゴスペル・ソングのフィー
ルド・レコーディング集。当時の様子を伝える生々しい環境音と共に、同運動の重要なキーとなる楽曲、そして熱唱の数々が横溢します。収録は、人種差別撤廃
と運動への資金援助を訴えた音楽グループ:SNCCフリーダム・シンガーズ(1962~66)、テネシー州ナッシュヴィルの学生たちによって結成されたナッシュ
ヴィル・カルテットらの魂を揺すぶる歌唱を中心に、キング牧師、そしてミシシッピ州における〈自由の夏運動〉を牽引した女性市民活動家:ファニー・ルー・
ヘイマー(1917-77)の演説など全26トラック。音楽的な素晴らしさはもとより、アフリカ系アメリカ人音楽文化の歴史を紐解く上でも、大変資料価値の高い
一枚です。