これまで多くの人々の心をつかんできた『般若心経』。その中でも特に有名な「色即是空、空即是色」という句は、インド、チベット、中国、日本などの注釈家によって多様に解釈されてきた。つまり色と空、迷いと悟りの関係も各地の文化的伝統に応じて理解されてきたのである。「色即是空、空即是色」を理解するということは、それぞれの伝統を理解することに他ならない。
本書では、『般若心経』の空思想が諸文化においてどう解釈され、日本でいかに受容されているかを考察する。
【目次】
はじめに
『般若波羅蜜多心経』本文
序 章 『般若心経』の魅力
第1章 禁欲と瞑想
第2章 仏教における否定と聖化
第3章 インド仏教史と『般若心経』
第4章 『般若心経』の翻訳と注釈
第5章 「五蘊は自性が空である」
第6章 「色即是空、空即是色」―インド人の解釈―
第7章 チベット仏教における解釈
第8章 「色即是空、空即是色」―中国人の解釈―
第9章 宗教行為のパターン―空性と時間―
第10章 般若波羅蜜多に依れ
第11章 色と空の溶け合うところ―日本人の場合―
文献一覧
あとがき
文庫版あとがき
判型・ページ数 文庫・294ページ
立川 武蔵
1942年、名古屋市生まれ。名古屋大学文学部卒。文学博士(名古屋大学)。Ph.D.(ハーバード大)。名古屋大学文学部教授、国立民族学博物館教授、愛知学院大学教授を経て、現在、国立民族学博物館名誉教授。専門はインド学・仏教学。著書に『中論の思想』『中論講義 上・下』(法藏館)、『空の思想史』『日本仏教の思想』『ブディスト・セオロジー』(5巻)(講談社)、『マンダラ観想と密教思想』『三人のブッダ』(春秋社)、『最澄と空海』『死と生の仏教哲学―親鸞と空海を読む―』(KADOKAWA)など。