1950年代後半から60年代にかけて、コンゴ音楽はアフリカ各地で大きな人気を集める一大ムーヴメントとなりました。その中心にはフランコ率いるOKジャズやグラ
ン・カレのアフリカン・ジャズといった名門グループが存在しましたが、その人気を各地へ運び、ルンバ・コンゴレーズを国境の外へ広めていった重要なバンドもありまし
た。その代表格が、今回ご紹介するリコ・ジャズ(Ry-Co Jazz)です。
リコ・ジャズは1958年、コンゴ音楽黎明期を支えた重要人物アンリ・ボワーヌ(Henri Bowane)によって結成されました。ボワーヌはギタリスト、作曲家、プロデュー
サーとして活躍し、「マリー=ルイーズ」をはじめとする歴史的録音にも関わった人物として知られています。グループ名は「リトム・コンゴレ(Rythmes Congolais=コ
ンゴのリズム)」を縮めたもの。結成後まもなく中央アフリカから西アフリカへ活動範囲を広げ、各地でルンバ・コンゴレーズの魅力を伝えていきました。
やがてギタリストのジェリー・マレカニ(Jerry Malekani)や看板歌手フレディ・ンコンク(Freddy N'KounKou)らを擁したリコ・ジャズは、ガーナ、コート・ディ
ヴォワール、リベリア、ギニア、シエラレオーネ、ガンビアなどを巡業。ガーナではハイライフの巨人E.T.メンサー(E.T. Mensah)とも交流し、各地の音楽家たちに大き
な刺激を与えました。さらにセネガルのダカールを拠点とした時代には、ダカールで録音した作品がフランスのヴォーグから発売され、西アフリカ各地で高い人気を獲得し
ました。
そのサウンドはルンバ・コンゴレーズを基盤としながらも実に多彩です。リンガラ語によるルンバやチャチャチャを中心に、マンボやボレーロなどキューバ音楽の影響を
色濃く反映。さらにフランス語やスワヒリ語の楽曲も取り上げるなど、国境を越えて活動した彼らならではの国際感覚にあふれています。流麗なギター・アンサンブルと軽
快なリズム、親しみやすいコーラスは、OKジャズとはまた異なる開放感を感じさせます。
1964年にはパリへ進出し、さらに1967年にはマルティニークやグァドループなどフランス領アンティル諸島へ活動の場を移しました。この時期には後にOKジャズや
レ・バントゥー・ド・ラ・カピタールでも活躍するサックス奏者ジャン=セルジュ・エスー(Jean-Serge Essous)も参加。リコ・ジャズはアンティル諸島で絶大な人気
を獲得し、その音楽は現地のダンス音楽と結びついて独自の発展を遂げていきます。後にズークを生み出すことになる音楽家たちにも影響を与えたとされ、カッサヴのジャ
ン=クロード・ナイムロ(Jean-Claude Naimro)もその重要性を認めています。
本作『ルンバ・ラウンド・アフリカ』は、そんなリコ・ジャズが1960年代に残した貴重な録音をまとめ、1996年に英RetroAfricから発表された発掘作品です。
RetroAfricはアフリカ音楽の歴史的音源の再評価に大きな役割を果たした名門レーベルとして知られ、本作もその代表的な仕事のひとつ。「Bana Ry-Co」「Mambo Ry-
Co」「Gariophona」などの名演からは、ルンバ・コンゴレーズが西アフリカへ広がり、やがてカリブ海へ渡っていく歴史のダイナミズムを生々しく感じ取ることができま
す。単なる懐古的復刻ではなく、アフリカ音楽が国境を越えて交流し、新たな音楽文化を生み出していった過程を伝える貴重な記録といえるものです。
コンゴ音楽ファンはもちろん、西アフリカ音楽やカリブ音楽、さらにはズークのルーツに興味のある方にもぜひ聴いていただきたい一枚。ルンバ・コンゴレーズが世界へ
羽ばたいた瞬間を記録した、アフリカ音楽ファン必携の名盤です。