フリクションのドラマー、チコ・ヒゲによる、オリジナルは1985年リリースのソロ名義セカンド作『Trap』。サウンドはまさにノーウェイヴ直系で、鋭角的なギター、捻じれたサックス、暴走するリズムが絡み合い、混沌の中に奇妙な統一感を生んでいる。ニューヨークのDNAやマーズあたりを思わせつつも、どこか湿った空気感や独特の転がらないビート感覚はやはり日本的。フリクションでのドラミングを土台にしつつ、より過激で自由度の高いアプローチが試みられており、全体を通して強烈な推進力とヒプノティックなグルーヴが支配していて、実験性と身体性が同時に走っている。ジャズ的な即興のニュアンスも垣間見える一方で、パンクの粗暴さとノイズの美学が前面に出ており、制御されたカオスとでも呼ぶべきサウンドを形成している。80年代日本のノーウェイヴを象徴する重要作にして、チコ・ヒゲの革新性を刻み込んだ孤高の一枚。