発売から20年以上の時が経過した今日もカルト的なファンを増やし続ける、佐藤竜雄&湯浅政明のタッグが手掛けた「ねこぢる」原作の2001年OVA作品『ねこぢる草』。
極めて入手困難な状態が続いていた、手使海ユトロによるそのサウンドトラック作品が、初となるCD/LP再発!
『月刊漫画ガロ』で連載された不条理系ギャグ漫画の特異な作品であり、90年代後半にはガロ系の枠を大きく超えて、「ねこぢるブーム」を巻き起こした「ねこぢる」が1990年から1995年に手掛けた漫画作品『ねこぢるうどん』。
その各編のシチュエーションをモチーフとして、佐藤竜雄監督、湯浅政明による脚本、演出、絵コンテ、演出・作画監督という豪華布陣にて制作されたロードムービー風のOVA作品『ねこぢる草』のオリジナル・サウンドトラック作品。
日常性や朴訥としたムードという糖衣でシュルレアリスティックな悪夢をコーティングした劇薬である原作、そしてその抽象的な側面を抽出した『ねこぢる草』の魅惑的劇伴となった本作は、その朴訥と悪夢が奇妙な、だが効果的にブレンドされた、無国籍的で特異な魅力を放っている。
オブスキュアな音楽作品としても名高い本作を手掛けたのは、作編曲家として、松崎しげるや太田裕美ら多数の歌手やミュージシャンに楽曲提供を行うのみならず、絵本作家のたむらしげる作品のサウンドトラック盤となった『ファンタスマゴリアの想い出』や『銀河の魚』、『クジラの跳躍』、そして、『夢の碑』、『チョーク色のピープル』、『風呂上がりの夜空に』といった、オブスキュアで傑出したイメージ・アルバム作品を担当した事でも知られる作曲家、プロデューサー、シンセサイザー奏者の手使海ユトロ。
伊カルト・ノイズ作家、マウリツィオ・ビアンキを彷彿とさせるようなダークアンビエント/ニューエイジとして秀逸な「イリュージョン」、それがよりコズミックに変化したような「そらをのみこんだとり」、作品の”洪水によって沈んだ地球”を舟で彷徨う主人公二人のシーンを彩る、民族音楽的であり、アジア的なムードを称えつつ幻想的な「船の上のにゃっ太たち」「魚の活造り」「魚の夢」など、珠玉のトラックを全19曲収録。
にゃーこが死神に連れ去られ、魂の半分を奪われる冒頭シーンで流れる、ストレンジな映像と調和する「変なおじさん」、仄暗く美しいニューエイジ作品として珠玉なその後の「赤いガラスの海」、原作のノスタルジーとシュルレアリスティックな感性が大きく反映された名演「まわる時計の針」 、そして、不吉なラスト以降のエンドロールで流れる、オルゴールのサウンドに彩られるノスタルジアと悪夢の再演「エンディング」に至るまで、原作、アニメの感性を強く捉えた上で音響として、楽曲として、劇伴として成立させる、手使海ユトロの真髄が発揮された金字塔的名盤。